今日は、大和市の超本格整体【ダフィーカイロプラクティック】の坂木です。

今回ご紹介するのは難治性の肛門痛の症例で、非常に悩まされたケースでした。通常の良しとされる矯正方向とは、真逆の施術を行ったことにおいて活路を見出した、常識に囚われているとダメだなと改めて認識させられた症例となりました。

 

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1、経緯

80代の女性のクライアント様で、初診時は杖をついてのご来院となりました。3ヶ月前に突然、肛門周辺が激痛になり、同時に右膝より下の足の部分が痛みを発症したそうです。

発症してすぐに病院に1ヶ月間の入院となりました。病院では、硬膜外ブロック注射や牽引療法などを行ったそうですが効果は無く、ベットで寝ている時間が長くなるための運動機能低下の予防のため、歩行訓練を実施されたようです。それで1ヶ月後には、痛みは当初の半分ぐらいには収まったそうなので、退院となりました。その病院での検査では、画像診断上の神経の圧迫は見られず、原因不明とのことでした。

その後も常時肛門周りの痛みは感じられるようで、病院退院後は地元の整形外科で通院をしていましたが変化がありません。そこで当院の消散性直腸肛門痛に関するホームページをご覧になり、お問い合わせを頂きました。当院では先ず、肛門科での診察を受けていただくようにお願いし、その上で再び原因不明と診断されるならば、カイロプラクティックが手助けとなる可能性があるとの趣旨の説明をさせていただいております。

 

2、初診時

当初ご本人様は、消散性直腸肛門痛を疑って当院にお越しになられたようですが、どうもお話をお伺いしていると症状が当てはまらないようです。消散性直腸肛門痛の場合、特徴としては痛みが間欠性であるということです。つまり痛みがずっとは続かず、途切れるということを意味しています。大抵の場合20分くらいから1時間以内で痛みは治まります。

しかし今回の場合、鈍痛が常時あり、変化がないという訴えです。消散性直腸肛門痛の場合、夜間に痛みが出る事が多く、激痛であり、痛みで起こされてしまいます。その点も今回の場合は当てはまらず、痛みで目が覚めてしまうことは無いとのことでした。

病院でのMRIなどの画像診断からは神経圧迫の所見は否定されていますが、腰部からの神経症状も確認のため見てみます。椎間板や神経の出口などでの神経の圧迫では、体の動きに合わせ症状の増悪がみられますが、今回は体の動きでの変化は見られません。右足の甲側が触ると過敏になっており、逆に足裏は感覚が鈍くなっています。一番特徴的なのは、足の親指の反らす力が左に比べ極端に弱くなっています。しかし、足やスネの部分は筋肉が細くなっている兆候は見られません。

さらに振動覚(音叉を使って、皮膚の振るえを察知する能力を調べる)の検査では、膝から下が両足とも知覚が鈍くなっていました。しかし、腱反射は特異的なものはなく、病的反射も特に見られません。

振動覚などの深部感覚といわれる体の位置情報を伝える神経伝達が鈍ると、人間は痛みを感じやすくなるという神経作用があります。この体の位置情報のことを固有感覚といいます。固有感覚は、痛み感覚を抑えてくれる作用があるのです。何か体に痛みを感じた場合、無意識の内に手でその部分を押えたりしますが、まさにそれです。圧迫の感覚は固有感覚なので、そのことが痛みの程度を抑えてくれます。

今回の足の痛みは、固有感覚の減少から来ているのか、それとも単純に腰部などの神経圧迫から来ているのか。固有感覚の減少も神経圧迫からなのか、単なる加齢によるものなのか。そもそも足の異常所見と肛門痛は関連あるのか、実は別々の原因があるのか。などなど考える事は色々あります。

姿勢自体も腰部が右凸の側彎をしています。

 

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3、施術経過

3-1、初診~5回目

初診時及び2回目はほとんど検査で終わりました。1回目と2回目では脚の痛む場所が微妙に変わり、初回時は足の甲からスネ前にかけてが痛いとの訴えだったのが、2回目ではふくらはぎから膝下の外側が痛いということで、一貫性がありません。神経を刺激するチネル兆候はなく、押した部位の圧痛があるのみです。末梢神経の問題なら腓骨神経領域ですが、神経根由来の問題なら第4,5腰神経あたりでしょう。しかし肛門痛の場合、末梢神経由来なら第4仙骨神経の問題となり隔たっています。陰部神経が骨盤内から体表に出てくるところを梨状筋下孔といいますが、そこから再び骨盤の内側に入り込む内閉鎖筋の管(アルコック管)までの神経走行を辿って押してみても、肛門への放散痛は発生しません。

これといって原因箇所が特定できないので、ベーシックに骨盤・腰椎を正中位に整えることから始めます。先ずは腰部の配列を正中に近づけることにより負担のかかり具合を減らす目的です。

2回目からはそれに加えて、坐骨神経の滑走性を上げる手技も織り交ぜました。神経痛に対するニューロ・マニピュレーションの手技が最近、流行っていますが、これには注意が必要です。この手の症状は神経が過敏になっているので、刺激量がちょっとでも多いと症状の増悪を見ます。今回も刺激量を加減しながら行いましたが、やはり術後、臀部周辺の痛みが増加しています。しばらくすると痛みは元に戻りましたが、これはイリタビリティ(刺激への過敏性)がイエローフラッグ(黄色信号=要注意)ということです。しかし、ここでも足部への放散痛は発生しません。

さらにクランプ・テストという脊髄神経から坐骨神経全域を伸ばすテストを実施してみても神経症状の増悪反応が見られません。むしろ健常者よりも楽にこなせるくらいです。クランプテストはストレッチ感がかなり強いので、健常者でも痛みを誘発してしまうことが往々にしてあります。そこで足部の部分は臀部と分離して考え、3回目以降から固有感覚を活性化していただくために、足の指を動かす運動をホームエクササイズとして実施してもらうことにしました。

 

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3-2、6回目~7回目

このクライアント様は毎回、次回予約を取らず、その都度来たくなったら連絡をしともらうという形で治療間隔を決めていています。7回目までは週1ペースでのご来院になっていました。それまでは施術直後は、それ程自覚症状に代わり映えがなく、大丈夫かな?と思っていましたが、それでもしばらく4~5日ぐらいは若干調子よくなり、その後また戻ってくる、とういう塩梅だったそうです。

さらに固有感覚の活性のため、小脳系の活性のためのエクササイズをやっていただいたり、痛み感覚を抑えるための脳からの指令を活性化する下降性疼痛抑制系の神経経路を活性化する手技やエクササイズを行いましたが、すべて無効でした。病院ではMRIにて脊柱での神経圧迫は否定されています。また坐骨神経への神経ブロックも効果がありません。骨盤内の病変も考えれますが内科での受診をお勧めしたところ結果は問題ないとのことでした。

右股関節の可動域が左に比べ制限があるため、その改善のための手技を施すのと同時に、自宅でのエクササイズとして課題を取り組んでいただく事にしました。股関節の歪みは、股関節周辺の筋肉の緊張を増し、神経への影響を与える可能性があるためです。また背骨が右に凸した湾曲のため仙骨もそれに伴い傾きます。仙骨と坐骨を結ぶ靭帯の下を陰部神経は通っているので、その処置も行います。

一度の多くのことをやるとどこが効果があるのか(=原因箇所なのか)が解らなくなるために、また刺激にたいしてイリタビリティがあるので、順次、試しながら処置の箇所を調節していくようにしています。

そのような事を重ねていくと、足底の知覚の鈍さはほぼ左右差はなくなり、当初より若干、足の親指の反らす力が戻ってくるようになりました。足底の知覚の鈍さは入院以降の歩行量低下による運動能力の低下によるもののような気がします。ただ、常時ある肛門痛には余り変化がないようでした。

 

4、転機

提携医院での撮影及び掲載承認、ご本人の掲載同意を得て提示します。

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ご覧のように腰の骨は右に湾曲しズレています。単純に考えると椎間板が潰れているのは左側の方で、神経圧迫が起るとすれば左に出るだろうと想像できます。しかし実際の症状は右側にでています。この様なことは現場ではしょっちゅうあります。レントゲン上、下部の腰骨は30°くらい右に傾いています。仙骨もそれに伴って多少右に傾いていますが、骨盤はそれ程の傾きは見せておらず、回旋(捻れ)の変位を起こして代償しているようです。

骨盤の傾きが腰椎の傾き程ではないとすると、そこから出る神経には圧迫刺激が来ても不思議ではありません。また腰部の右へのシフトは右側にかかる荷重を増大させ、骨盤との連結部分に圧力をかける要因にもなります。いままでは腰部全体を、背骨の長軸上に真っ直ぐ牽引するような減圧の仕方を行っていました。しかし症状改善の進捗状況が遅々として進まないので、8回目からもっと極端に右の下部腰部と骨盤の連結部の間を開くような牽引手技に切り替えました。

もっと早めにそのような方法を取り入れる選択肢もありましたが、次の2つの懸念材料があり躊躇していました。

1つは、右の椎骨間を開くということは、腰部の右凸を強調させると言う事です。どんなに局所的に骨を動かそうとしても、背骨は様々な組織(骨膜、靭帯、筋膜)で力が伝達され、一緒に動いてしまうのです。ただでさえ右凸側彎しているのに、さらに強調させるのはいかがなものか、という懸念があるのです。

もう1つは、刺激に対して過敏性があるので、刺激量が増える手技に対して悪化反応を示さないかということも心配されたのでした。

ただ今まで、相当数セッションを重ねているので、無理のないレベルの刺激量も把握できてきているので、実施する事にしました。それに加えて陰部神経自体も神経の滑走性を上げるための神経リリースを加えました。術後は肛門の痛みは感じなくなっているそうです。後はそれがどのくらい日常で維持できるかが問題になります。

そこでさらに加えて、骨盤底筋を鍛えるエクササイズを行っていただきました。これは先ほど述べたように、運動することは筋の固有受容器を刺激し、痛み刺激に対する耐性を獲得するのに役立つと思えたからです。

そのお陰か、8回目以降はご来院の頻度が3週~1.5ヶ月に開けれるようになりました。現状では11回目の来院回数を数えていますが、もっともっと来院頻度を減らしても大丈夫な状態に一刻も早くもっていきたいと思っています。

 

 

 

 

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5、考察

高齢の方は、加齢のため神経機能も弱くなってきます。そのため通常みられるような神経の反応が、教科書通りにはいきません。あまり神経学的な検査を細かくやりすぎると整合性が取れなくなり、解釈が難しくなります。そのため状態把握は大雑把に見ることがセオリーですが、あまり粗い捉え方をしていると原因箇所の特定ができなくなってきます。

さらに高齢の方は問題箇所を複数持っていることが多く、それが互いに影響し合い症状を作り出しています。また、何か一つ手技をやろうとする時にも、やり方の修正を色々考えなければいけません。さらに、手技を行うことで得られるであろと予想される結果と違うこともあり、今回もセオリーはかけ離れた方法をとることになりました。

通常の考え方では、歪んでいるものは真っ直ぐになるべく近づける、というのが正しいようにされています。しかし今回は逆に歪みを強調する方へ持っていった方が症状軽減につながっているようです。もちろんこれは疼痛回避姿勢を強調した、対処療法的な処置で根治治療ではないと考える事もできます。しかし、症状の改善が見られない処置は、そもそも治療にもなっておらず、それは根治とは呼べません。多分、根本部分ではないでしょう。症状は長期化すると組織はリモデリングという構造の改変が行われてしまい、神経的には感作と呼ばれる神経接続の改変が行われてしまい、治らなくなります。

ある程度の時期を見計らって、やはり姿勢の正中に近づける作業は必要となると思いますが、先ずは症状軽減に何をするかを考えるのが優先順位です。正中に近づける作業は、それ以上の骨の変形を進行させないという意味で重要なので、いづれは取り掛からなければいけないというのはあります。

 

6、まとめ

今回のクライアント様は年齢的にも話題になっている、脊柱管の狭窄の影響があるかもしれません。ただ歩行時に増悪する痺れという脊柱管狭窄症の典型的症状はみられず、病院で特に神経圧迫を画像診断で見つかっていません。また、加齢からくる神経反応も考慮すると状況判断に苦慮する症例です。一般に的には正しいとされる事と逆を行うことで、活路を見出したケースをご紹介しました。

今回はこの辺で。