Iliocapsularis Muscleについて

今日は、ダフィーカイロです。

今回は以前アップした記事「変形性股関節症についての雑感」内でIliocapsularis Muscle(腸骨関節包筋)の言及について指摘がありましたので、そのことについてフォローアップの記事を載せることにしました。

ですので、今回は業界関係者向けの内容となります。一般の方には直接関係のない話なので、特別興味がある方以外は、これ以上読み進めるのは控えて頂いた方が無難だと思います。

 

以前の記事の内容について

前の記事において「Iliocapsularis muscleは股関節の変性に伴って発達してくる筋肉で、健常者では萎縮しています」と紹介させて頂きました。この筋の位置からすると、不安定になった股関節の前方を支える役割を担っているため、健常者では不要と考えられているからでした。

下に場所を図示します。最初に股関節前面の付着筋。縫工筋・大腿直筋・大腿筋膜張筋等は表示してありません。

次に付着筋を取り除き、股関節包を露出させ、Iliocapsularis muscleの位置を示しています(赤線部)。AIIS(前下腸骨棘)・関節包前面から大腿骨小転子へ付着しています。

以前紹介した論文の要約を改めて掲載します。前回はURLの紹介のみでしたので、今回は要約も載せております。

【Iliocapsularis:形成不全の股関節の重要な安定機構】

The Iliocapsularis Muscle: An Important Stabilizer in the Dysplastic Hip

出典;Clin Orthop Relat Res. 2011 Jun; 469(6): 1728–1734.Published online 2010 Dec 3. doi: 10.1007/s11999-010-1705-x

著者;D. Babst, S. D. Steppacher, R. Ganz,K. A. Siebenrock,  M. Tannast.

《概要》
Iliocapsularis muscle(IC)は股関節包前面を覆い、股関節形成異常では発達し、安定している股関節では委縮していると考えられている。Wardらは、股関節形成不全でない手術(寛骨臼および大腿骨頭の骨折)時と、股関節形成不全の寛骨臼骨切り術の時の観察を比較し、股関節形成不全時が、より著明にICが発達していることを見て取り、この考えを支持している。

1977年11月~2006年10月の期間で50歳未満を対象に、該当患者を臼蓋発達不全(グループ①/45人・45関節)と過剰臼蓋(グループ②/37人・40関節)に分けた。これらの解剖学的寸法と脂肪浸潤量を計測。

結果はとして、グループ①は、グループ②に比べ、ICの筋厚、幅、円周、断面積、部分体積の増加が見られ、脂肪の浸潤量は少なかった。

股関節の不安定性は慢性的な過負荷と剪断力を起こし、特に股関節完全伸展と外旋で著明となる。この動きはICが最大に伸張負荷がかかり、筋の肥大化を促す。過剰臼蓋では骨頭の安定化が骨構造で成されるので、ICの強さは不要となり、脂肪浸潤を伴う筋委縮が起こる。

ICは人類にとって不変の筋で、全ての患者に存在する。霊長類、ラット、爬虫類、鳥類にもみられる。ICの真の機能は不明であるが、寛骨臼の形態的特徴でサイズと質が変わる筋であると言える。

 

残念ながら上の論文では、健常者との比較がないので、健常者の股関節のIliocapsularis muscleはどうなっているのかが分かりません。あと、細かい数値や詳しい図は原文に載っていますのでそちらをご参照下さい。フルテキストはタイトルからリンクを辿ってください。

また、この論文中に出てくる過剰臼蓋(excessive acetabular coverage)とは、股関節インピンジメントを起こすものとされているので、一般に言うところのピンサータイプ(pincer type)に当たると思います。

さて、先に述べたように以前の記事「変形性股関節症についての雑感」でIliocapsularis muscleについては、この論文をベースに説明したのでした。それに対してどのような指摘が入ったかというと、Iliocapsularis muscleは健常者、形成不全者ともに形状は同じで違いはないというのです。

確かに、この論文は10年前(2011年)の情報ですし、私の知識は10年前で止まってしまっているとも言えます。これは油断していた、と改めて新情報を探索することにしてみました。

 

【大腿直筋運動神経支配の解剖学的変異】

Anatomical variants of the rectus femoris motor innervation

出典;J Hip PreservSurg.2019Jun20;6(2):170176.doi:10.1093/jhps/hnz026. eCollection 2019 Jul.

著者;Dominic Plante,Nicolas Janelle,Mathieu Angers-Goulet,Philippe Corbeil,Mohamad Ali Takech,Etienne L Belzile

《主にIliocapsularis muscleに関する部分の概要》

寛骨臼骨切り術を行う際、大腿神経損傷のリスクがある。鼠径部損傷や手術の病歴のない平均年齢79歳(74〜89歳)の7体の献体(男性5体、女性2体)の解剖から、AIIS周辺の局在構造の情報を提供する。対象の71%からIliocapsularis muscle(平均筋厚5.5 ± 1.4 mm)が観察された。

ICの実際の機能と神経支配はまだ決まっていない。Babst Dら(2011年)、Ward WTら(2000年)、Haefeli PCら(2015年)の研究では、ICはコンスタントに存在すると述べられているが、今回の観察では当てはまらなかった。これは、まだ定義されていないICの解剖学的バリエーションによる可能性がある。

 

この論文では、股関節サンプル13本中、30%にはIliocapsularis muscle(IC)が存在しなかったと述べています。ただ、標本の股関節の形成異常の有無は特に調べられていないようなので、股関節の状態に伴ってICが発達したのかは不明です。献体の股関節の可動域は事前に測定されたようですが、数値の記載も特にありません。

 

 

【胎児のIliocapsularis muscle】

Iliocapsularis muscle in human fetuses

出典;Surg Radiol Anat.2019 Dec;41(12):1497-1503.doi: 10.1007/s00276-019-02312-w.Epub 2019 Aug 30.

著者;Özlem Elvan Mustafa Aktekin Ecem Şengezer Zeliha Kurtoğlu Olgunus Alp Bayramoğlu 

《概要》

ホルマリン固定された女性12人、男性9人の胎児(平均妊娠周期29週(±3.89週)を解剖し、胎児期の Iliocapsularis muscle(IC)の形態と発生率を確認した。股関節42本中、39本(92%)でICを観察できた。筋の近位付着部は39本中21本において大腿直筋腱の近位付着部の下に有った(54%)。10本はAIIS上で大腿直筋腱と共有していた(26%)。8本は大腿直筋近位付着部の上部-中部-下部に沿ってアーチを形成していた(20%)。股関節包付着の筋線維部分は、全ての標本で一定である。IC遠位付着部は全て小転子遠位部であった。ICの形状は、32本(82%)が幅広になっており、7本(18%)が薄い長方形であった。腸腰筋とICは、34本(87%)が個々の筋膜を持ち、5本は各々の筋を明確に分離する膜が無かった。ICの長さは男性よりも女性の方が長く(p = 0.031)、右側の方が幅が広かった(p = 0.029)。胎児期のICのデータから、その寸法、位置、関節包上の走行を鑑み、ICは股関節包の引き締め・安定化に寄与していることを示している。

 

こちらの研究では、サンプル数は多くはありませんが、全献体の92%にIliocapsularis muscleが存在したと報告しています。8%(42本中3本)にICの欠損がみられました。

 

【大腿直筋と比較して増大したiliocapsularis は、境界性股関節の不安定性を示唆している】

An Increased Iliocapsularis-to-rectus-femoris Ratio Is Suggestive for Instability in Borderline Hips

出典;Clin Orthop Relat Res. 2015 Dec; 473(12): 3725?3734.Published online 2015 Jun 19. doi: 10.1007/s11999-015-4382-y

著者;Pascal Cyrill Haefeli, MD, Simon Damian Steppacher, MD, Doris Babst, MD, Klaus Arno Siebenrock, MD,corresponding author and Moritz Tannast, MD

《概要》

Iliocapsularis muscle(IC)は正常な股関節に於いて、安定化機能として股関節包前面の構造物である。正常の股関節や、過剰臼蓋と比較し、股関節形成異常(DDH)におけるICは大腿直筋との比率が、筋厚、幅、周囲長で増大するのか?ピンサー型インピンジメントから形成異常を区別するための、IC-大腿直筋比率の診断パフォーマンスは何になるか?を調べた。

DDH45人(45関節)、インピンジメント(FAI)37人(40関節)、正常26人(30関節)をサンプルに、DDHとFAIの治療群はMR関節造影で、正常群はMRIを用いて測定した。

ICの筋厚、幅、周囲長の大腿直筋との比率は、DDH群がFAI群、正常群両者と比べ増加していた(p < 0.001)。断面積に関しては、DDH群はFAI群と比べ増加していたが(p <0.001)、正常群と比べて差はなかった(p = 0.464)。大腿直筋は、断面積、筋厚、幅、周囲長に関して、DDH群がFAI群に比べ減少を示し(p=0.001~0.04)、正常群と比べ差が無かった(p=0.330~0.967)。

境界性股関節形成異常とカム型FAIの両方の特徴を備えた股関節症の病態生理学的問題を定義することは難しい。ICはDDHの間接的兆候として使用できるが、計測した絶対値が診断には役に立たない。DDHとFAIを区別するため、大腿直筋と比較したICの相対的サイズの診断価値を評価した。大腿直筋と比較し、ICの断面積の8%以上の増加と、筋厚の49%以上の増加がある場合、DDHを強く示していることが分かった。

 

この論文では対象群として、股関節に問題のない人が26人分使われています。股関節とは関係ない部分でMRIを撮り、その画像を元に計測したそうです。下の表にIliocapsularis muscleの各測定値を原文よりコピペしておきます。だいたいこの筋は、厚さが1.4㎝ほど、幅が2㎝ほどであるということがわかります。

DDH FAI ノーマル
断面積(cm2) 2.07±0.99 1.48±0.48 1.92±0.77
厚さ(cm) 1.66±0.52 1.29±0.23 1.42±0.37
幅(cm) 2.34±0.57 1.85±0.33 2.05±0.48
周囲(cm) 6.85±1.81 5.28 ± 0.95 5.93±1.18

 

 

考察

上に挙げた情報をまとめてみますと、大部分の人にはIliocapsularis muscleは存在するみたいですが、30~8%の割合でない人もいるようです。ただ、解剖学的欠損は個体差としてよくあることです。

先に挙げた研究で見られるように股関節形成異常のICでは筋が発達する傾向にあります。ただ、正常な股関節のICと比べ、筋厚や幅は数ミリ大きくなるといった程度です。もともと筋自体が小さいものなので。臼蓋が過剰に出てきて関節を挟み込むインピンジメント(FAI)では、骨性の安定化が進むので、筋による安定化が小さくなり、脂肪浸潤し、筋が委縮する傾向があります。

我々、施術者に関わる点として、触診でICを調べる場合は、これらの要素を考慮して臨むと、精度の向上につながると思います。まず、ICは誰にでもあると思い込まず、欠損している人も一定数いるという事。また、病理的要因で発達したものは触れやすく、委縮したり脂肪浸潤したりしている筋は張りが弱く分かりづらくなっている可能性があります。

 

まとめ

今回は「Iliocapsularis muscleは健常者、股関節疾患者で違いがあるのか、ないのか」について形態学的な視点で、資料の探索・紹介をしてみました。もともと小さい筋の、さらに数ミリ程度の差異の有無を識別するのは難しいかも知れませんが、エコーなどで鑑別する際に大事ではないかと考えています。

従来では、Iliocapsularis muscleは股関節伸展時の大腿骨頭の前方への剪断力を抑制するという働きに注目が集まっていました。しかし最近では、Iliocapsularis muscleは股関節屈筋としての働きにフォーカスが移ってきているようです。次の機会ではそちらを注目して紹介をしていきたいと思います(いつになるか分かりませんが)。

では、今回はこの辺で。

 

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