首の矯正の血管への負荷

カイロプラクティックの頚椎矯正のスラスト手技(ポキッとなる矯正)の安全性/危険性を検証する記事の第9弾です。2016年12月初出の記事のリメイクになります。

首の矯正時の頭頸部のポジションは丁度、下の写真のような回旋と側屈が入ったポジションになるのが一般的です。しかし、このポジションを取っただけで、首の血管が裂けてしまうのでしょうか?

自分の身の回りの人を思い出してください。道路を渡ろうと右見て、左見て、と首を動かしたら脳卒中を起こしてしまったという人を見かけたことがありますか?車の運転で、バックする時振り返っていたら脳卒中を起こしてしまったという人は?

首を大きく動かしたらくも膜下出血を起こしたり、脳梗塞を起こしていたら、ヘディングをするサッカー選手はみんな脳卒中になってしまいます。まぁ、探せばいるかも知れませんが、ほとんどそのような話は聞いたことがありません。

今回は実際に首の矯正手技により首の動脈が裂けるのかを実験で立証しようとした研究をご紹介していこうと思います。

 

 

【高速、低振幅の頚椎矯正手技の最中の内頚動脈の緊張】

Internal Carotid Artery Strains During High-Speed, Low-Amplitude Spinal Manipulations of the Neck.

著者;Herzog , Tang C, Leonard T

出典;J Manipulative Physiol Ther. 2015 Nov-Dec;38(9):664-71. doi: 10.1016/j.jmpt.2012.09.005. Epub 2012 Nov 6.

【概要】

《目的》
この研究の主要な目的は、頚椎の矯正操作中に内頚動脈にかかる緊張や、首や頭部の理学検査中の可動域の定量化することだった。

《方法》
内頚動脈の緊張度は、ソノマイクロメトリー(sonomicrometry)を使用し、防腐処理を施されていない新鮮な6献体で計られた。熟達したカイロプラクティック・ドクターによって施された頚椎矯正手技中の、内頚動脈に対する緊張度の平均値と最高値は、自動運動による首の可動域や、頸部・頭部の理学検査中に引き起こされる緊張度と比較された。

《結果》
頚椎矯正手技中に得られる内頚動脈への緊張度の最高値や平均値は、自動運動や理学検査中に受ける緊張と比べて、著しく低い (P < .001)ということが解った。可動域いっぱいに動かす事や検査手技中に受ける全ての緊張は、内頚動脈の初期不全による緊張よりも劇的に小さかった。

《結論》
この研究では、頚椎矯正手技による内頚動脈への最大緊張は、首の正常な可動範囲内で行われるということを知らしめてくれた。カイロプラクティックの首への手技は内頚動脈への緊張の理由ではなく、それらは正常な毎日の動作中に過剰に蓄積されたのである。従って、この研究中の訓練された施術者による頚椎の手技治療は、例えば内頚動脈の損傷の要因となるというような、内頚動脈へ酷い緊張をもたらすという場面には遭遇しなかった。

 

カナダのカルガリー大学キネシオロジー学部が中心となった研究チームの2015年公表の新しい論文です。

この論文では、遺体を使って頚動脈に対する負荷のかかり具合を研究しています。内容によると、矯正による首の血管の引っ張られる強さは、普通に自分で首を振り向いたりした時の引っ張られ具合と変わらない、ということを語っています。

この論文で、頚動脈には問題を生じないという事がわかりました。しかし、動脈解離を引き起こすのは椎骨動脈なので、そちらを研究対象とした報告をさがします。

以下に椎骨動脈を対象として動脈壁の損傷に対する研究を掲げます。

 

【頚椎矯正操作療法中にかかる椎骨動脈内部の圧力】

Internal forces sustained by the vertebral artery during spinal manipulative therapy.

著者;Symons BP, Leonard T, Herzog W.

出典;J Manipulative Physiol Ther. 2002 Oct;25(8):504-10.

【概要】

《背景》
脊椎手技療法(SMT)は、いくつかの筋骨格系障害の管理のための臨床的に有効な様式として確立されている。SMTの使用の一つの大きな問題は、とりわけ、頚椎矯正と椎骨脳底動脈システム損傷のリスクという、重大さに関する安全性についてである。

《目的》
我々の目的は、SMT中の椎骨動脈(VA)に持続的にかかる緊張と圧力を定量化する事であった。

《研究デザイン》
死体による研究。

《方法》
5体の防腐処置が施されていない死後硬直後の遺体から6本の椎骨動脈を適用した。頭側/遠位(C0-C1)から尾側/近位(C6-鎖骨下動脈)の椎骨動脈のループは慎重に剖出され、圧電性超音波検査の結晶が一組づつ装着された。理学検査としての可動域検査中と、多様なSMTの手順を行っている中で、それぞれの結晶体のペア間の緊張度を記録した。また、椎骨動脈は機械的な損傷が発生するまで材料試験機で自由に裂かれたり、引っ張られたりした。

《結果》
脊椎手技療法(SMT)は頚椎の反対側で以下のような結果を出した。椎骨動脈遠位ループ(C0-C1)では平均緊張度6.2% +/- 1.3%、近位ループ(C6)では2.1% +/- 0.4%を記録した。これらの価値は、診断中または可動域検査中に受ける緊張度と同等か、もしくは低い値である。傷害テストで、椎骨動脈は機械的な損傷が発生するまでに、安静位から139% ~162%までストレッチする事ができるということが実証された。したがって、SMT中に椎骨動脈にかかっていた一連の緊張は、機械的な傷害に至る緊張のほぼ1/9であるということを示していた。

《結論》
SMTで椎骨動脈にかかる緊張は、椎骨動脈を破壊するに必要な緊張度に比べ、ほぼ1段階、力のレベルが低いという結果を生じた。私たちは、通常の状況下では、脊柱矯正手技の一つの特徴である(高速/低振幅による)急圧矯正(スラスト)は、機械的に椎骨動脈を破壊するのには至りそうに無いと結論づけている。

 

カナダ、カルガリー大学キネシオロジー(身体運動科学)学部ヒューマン・パフォーマンス・ラボの研究になります。

この論文中では、椎骨動脈は損傷を発生するまでに、元の長さから139% ~162%くらいまでは、長さが伸ばされても大丈夫だったということです。そして頚椎矯正中にかかる椎骨動脈に対する負担は、動脈壁損傷を発生するに至る力に対して1/9の力しか生じないという事がわかりました。

このことにより矯正手技で椎骨動脈を損傷させることは、可能性が低いということが言えると述べています。

 

 

【首と頭の同時動作分析による椎骨動脈の緊張度の定量化;予備的調査】

Quantifying strain in the vertebral artery with simultaneous motion analysis of the head and neck: a preliminary investigation

著者;Piper SL, Howarth SJ, Triano J, Herzog W.

出典;lClin Biomech (Bristol, Avon). 2014 Dec;29(10):1099-107. doi: 10.1016/j.clinbiomech.2014.10.004. Epub 2014 Oct 23.

【概要】

《背景》
自然発生した椎骨動脈損傷は、若年者において死亡率と罹患率が大きい。だが残念ながら発生メカニズムは不明である。
本研究の目的は、椎骨動脈にかかる機械的な伸張力を測ることである。同時に、脊柱矯正中における胴体と比較した首と頭部の受動的動作中の動作分析データと、基準動作面を捕らえることも目的としている。

《方法》
8圧電性結晶(椎骨動脈ごとに4極)を3献体の標本の動脈の左右の内腔に縫合した 。
超音波を使って位置を照合して、首や頭部の中間位から隣接した結晶までの間の長さの変化を測定し、緊張度を計測した。同時に、胴体から上の首や頭部の他動的な動きは、8つの赤外線カメラを使用し撮影された。椎骨動脈における瞬間的な損傷の発生は、頭部の位置の相対的な変化と関連があった。

《所見》
受動的な伸展-回旋と比較された、受動的な屈曲-回旋中の対側の椎骨動脈の緊張は変動する([df=32]: -0.61<r<0.55)。緊張のピークは、脊柱矯正中における基準動作面との角度変化のピークと一致しなかった。軸に対する回旋は損傷に至る最大値を示した。脊柱矯正中に成された最大限の緊張時でも、最終可動域に受動的に動かされて成された緊張や、以前に報告されていた失敗の限界値よりもよりも、比較できるほどに低くかった。

《解釈》
この研究の結果は次のことを示唆する。脊柱矯正を含む頭部を動かしている間の椎骨動脈の緊張は、今まで公表されていた障害を引き起こすレベルの緊張を超過してはいなかった。椎骨動脈での最大緊張は最終可動域で発生するのでは無く、どちらかというと首と頭部の動作中のいくつかの中間点で起る、という新しい根拠をこの研究では提供している。

 

2014年発表のカナダのメモリアル・カイロプラクティック大学とカルガリー大学の共同研究になります。

3体の献体の左右の椎骨動脈それぞれに4ヶづつマーカーを縫いつけ、頭を動かした時の血管の伸びた長さを計測。首を可動域いっぱいに動かした時に得られる血管の緊張に比べ、頚椎矯正時の形をとったポジションでは血管に対する緊張度が低い、という事が報告されています。

従来のイメージでは首を最大まで捻れば首の動脈も最大まで引っ張られ、損傷するだろと考えられていましたが、最大まで動かすより手前の途中の地点で、椎骨動脈は最大の緊張を得ているということが判かりました。

これはどういう事かというと、普段の生活の中でも最大限の引っ張り力が働く事があり、それは避ける事ができないということです。ただ、その力でも血管の損傷を引き起こすようなレベルまでには達していないと述べられています。

 

 

【健常者における脊柱矯正操作後の軟部組織損傷のマーカー;無作為化比較試験の予備報告】

Tissue damage markers after a spinal manipulation in healthy subjects: a preliminary report of a randomized controlled trial.

著者;Achalandabaso A, Plaza-Manzano G, Lomas-Vega R, Martínez-Amat A, Camacho MV, Gassó M, Hita-Contreras F, Molina F.

出典;Dis Markers. 2014;2014:815379. doi: 10.1155/2014/815379. Epub 2014 Dec 25.

【概略】
脊柱矯正操作(SM)はその鎮痛効果のために、筋骨格障害を治療するために頻繁に適用される手技療法技術である。関節の生理的な可動域を超えた動きを与えるためにコントロールされた刺激を与えるという手技の手順で定義されている。この意味で、関節の生理学的ROMを超えることは、脊椎操作に関連する有害作用を表す組織損傷を引き起こす可能性がある。

本研究では、損傷マーカー分析を通じてSMに関連する組織損傷の存在を探究しようとしている。Jaen大学で募集された30人の健常被験者を、プラセボSM(対照群; 10人)、1椎のみの下部頚椎の矯正操作(頚椎群; 10人)、および胸椎操作(10人)で検査した。介入前に、採血を行い、遠心分離して血漿および血清を得た。この処置は、介入の直後および介入の2時間後に繰り返した。組織損傷マーカーであるクレアチンホスホキナーゼ(CPK)、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)、C反応性タンパク質(CRP)、トロポニンI、ミオグロビン、神経特異エノラーゼ(NSE)およびアルドラーゼをサンプル血中より同定した。3 × 3 混合モデル 分散分析(ANOVA)による統計的分析を行った。

頚椎および胸椎いづれの矯正操作において、CPK、LDH、CRP、トロポニンI、ミオグロビン、NSE、またはアルドラーゼ血中濃度に有意な変化をもたらさなかった。我々のデータは、SMによって引き起こされる機械的緊張が、健康な被験者の関節および周囲の組織に無害であるだろうということを示唆している。

 

2014年発表のスペインの研究チームによる先行研究です。

前述の論文は3つとも遺体を使っての研究でしたが、今回のものは健康な大学生が被験者となっての研究です。

頚椎の矯正手技により、本当に血管に損傷が起るならば、血液中に損傷マーカーが出るはずなので、それを調べようという内容です。採血は矯正前と、矯正直後、矯正後2時間経過時にとり、血液分析を行いました。

30人の被験者の内、10人に下部頚椎1箇所の矯正を施し、他の10人は胸椎の矯正を施し、残り10人はプラセボ対照群として実施しました。結果は、どの群も有意な反応は無く、血管などの組織損傷していないということです。

実際、生きている人間における首の矯正でも組織の損傷は起らないとう一つの証明になる報告でした。

レポートのフルテキストはこちら

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4291009/

 

考察

3番目の研究(カルガリー大学、メモリアル・カイロ大学)で示された通り、日常生活の動作でも椎骨動脈の最大伸張になることは頻繁にあり、それが椎骨動脈解離が原因不明で自然発生という現象の一つの要因になると考えれます。

しかし、その最大伸張域に達していても、血管損傷を起こすレベルの伸張ではないとのことなので、実際、何が原因で椎骨動脈解離が自然発生するかは不明のままです。

それぞれの論文で、首の矯正のポジションの方が、通常の可動域検査のポジション、または首の最大の可動域まで達したポジションより椎骨動脈の引っ張られるストレスが少ないということを述べています。これがどういうことかを考えてみます。

背骨は1ヶ1ヶの骨の動きを観察すると、1方向のみの動きというのは起りません。例えば、首を右に振り向いた動作をしても、首の骨は単純に右の回旋のみの動きだけをする訳ではないのです。この時、右の側屈(右傾)も加わります。首を屈曲(うつむく姿勢)してなければ、伸展(反らす方向)も自然と若干はいります。この様な動きはカップリング・モーションといいます。それは骨の関節の各々の形状によって決まってきます。

関節の動きは、通常、自分でも動かせる方向の屈曲(前に曲げる)、伸展(後ろにそらす)、回旋(左右への捻り)、側屈(左右に傾ける)の6方向の他に、自分では意識的にできない動き(副運動)が並進運度(滑り、離開など)があります。これらは、連動してセットで起るのですが、一つの方向の動きメインで起きると、他のカップリングで起る動きえを制限します。例えば、首を右に振り向く動作と、首を右に傾ける動作(右側屈)は、どちらも骨のカップリングは右の回旋+右側屈で同じ方向で起りますが、右へ振り向く動作の時は回旋運動が多くなり、側屈量は抑えられます。右へ首を倒す動きの時は、右への傾き運動の方がメインで多く、回旋運動の量が抑えれれます。

首のスラスト(急圧)矯正の目的は、関節の可動性を取り戻すために行うことが多いので、まず、関節が開きやすいようにポジションを取り、そこから側屈を加え、次に回旋方向に首を動かします。そこで関節面に沿うような方向に圧を加え関節を動かします。

首の動きでは、反らす動きと、捻る動きは負担が大きいので、首の矯正時にはなるべく回旋の動きを小さくしたいのです。その際、先ほどのカップリング・モーションを利用して、先に首の側屈をつくり、回旋の動きをなるべく少なくした状態で矯正のポジションまでもっていくようにしています。

そのため、単純に首を最大限まで回旋させたり、最大限まで側屈させるような動作より、矯正ポジションの方が椎骨動脈の伸張力がかかりづらくなると考えられます。

これが首の矯正時に、血管壁が引っ張られすぎて損傷することに対して防御するメカニズムとなります。

この記事の序文で示した、首を振り向いた姿勢で首の動脈が裂けるのかという疑問ですが、血管は伸ばされはするが、その程度のストレスでは血管組織を破壊するレベルではないと考えられます。また、自動運動や理学検査で行われる他動運動での首を可動域いっぱいまで動かすような動作より、首の矯正ポジションは椎骨動脈の伸張は少ない、と言えます。

 

まとめ

今までは、首の矯正が動脈の解離を引き起こしていたのか、なかったのかという事を発生率という数値から捕らえる試みをしていましたが、今回は血管の組織に物理的力が及び、実際損傷するかの研究の報告を行いました。

今回の結果で、動脈血管の組織の破壊は起りづらいということはわかってきたので、次回は血管内の血流状態はどうなのか?という事を探っていきたいと思います。

 

 

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