カイロによる椎骨動脈解離リスクの研究の紹介と予防策


Larisa KoshkinaによるPixabayからの画像

 

今回は椎骨動脈解離とカイロプラクティックの関係について2022年度版の第3弾になります。

前2回ではカイロプラクティックの首の矯正(ポキっというタイプのもの/CSM)についての危険性の低さや、効果効用についての説明させて頂きました。とは言え、実際に首の矯正に関して危険性があることも事実です。そこでシリーズ3回目となる今回は、首の矯正による危険性に関する研究の紹介と、その危険をどう回避するかについて当院なりの方法のご紹介をしていきます。

 

先に前2回をお読み頂くことをお勧めします。

・1回目「椎骨動脈解離とカイロプラクティックの首の矯正の椎骨動脈の負荷のかけ方について」の記事

https://www.daffychiro.com/vertebral-artery-dissecting-and-chiropractic1/

・2回目「カイロプラクティックの首の矯正の効用について」の記事

https://www.daffychiro.com/vertebral-artery-dissecting-and-chiropractic2/

 

 

【頸椎マニピュレーションの安全性: 有害事象は予防可能であり、マニピュレーションは適切に行われているか? 134件の症例報告のレビュー】

Safety of cervical spine manipulation: are adverse events preventable and are manipulations being performed appropriately? A review of 134 case reports

出典:J Man Manip Ther. 2012 May; 20(2): 66?74.doi: 10.1179/2042618611Y.0000000022

《概要》

頸椎マニピュレーション (CSM) は、理学療法士、カイロプラクター、およびその他の医療従事者が、頭痛、首の痛み、こわばりなどの多くの障害を治療するために利用している。CSM の安全性に関する議論では、有害事象(AE)の発生率が50000~585万回の矯正回数につき1回との報告とあり、一致していない。CSM後のAEの予測可能性を調べた。

PubMed (1950–2010) および Cumulative Index to Nursing and Allied Health (CINHAL,1982–2010) を用い、CSM後のAEに関する査読付きジャーナルに掲載された症例報告を検索し、134件の症例報告を分析。AEの予測可能、予測不可能、不明に分類した。

首の痛み、首のこわばり、頭痛、または頸椎神経根障害などの特定の状態にCSM使用された場合、ケースは適切であると判断し、腰痛、中耳炎、喘息、神経根以外の肩の痛み、または定期ケアなど、頸部障害を示さないものにCSMが実施された場合は不適切とした。CSM後に出た症状で一般的なのは、弱化(59人)、知覚異常(53人)であった。全AEの37.3%(50人)に動脈解離があった。

予防可能性は、患者の怪我のリスクを高める要因の存在に基づいた。患者が現在・過去の病歴のいずれかで CSM の禁忌またはレッドフラッグがないように見えた場合は予防不可能と分類し、禁忌またはレッドフラッグが原因でCSMを控えることが出来る場合は予防可能と分類した。CSM が5回以上連続して治療セッションを継続し、症状の変化がない、または症状が悪化した場合も、症例は予防可能であると分類した。予防可能なケースに含まれる既往症は、 重度の脊椎症、骨粗鬆症、関節リウマチ、強直性脊椎炎、および頸部狭窄を含む活動的な骨病変の大部分 (70%、21人)、心筋梗塞や頸動脈のアテローム性動脈硬化症などの血管病変は13.3%(4名) だった。

結果として、CSMの適切さとAEの予防可能性との間に有意な関連はなかった。報告された全てのCSMの80.6% が適切な条件で実行されたが、44.8%のケースは予防可能であり、明らかに禁忌の兆候についてスクリーニングされていなかった。全ての禁忌とレッドフラッグを除外するための徹底的な検査はCSMに関連する全てのAEのほぼ半分を防ぐ可能性がある。19.4%は不適切な状態でCSMを実施されていた。

CSM後のAEの発生率は50,000回につき1回とまれであったが、10.4%(14人)のAEは予防不可能であった。何百万ものCSMがAEを引き起こさずに実施されているが、不適応者の除外と適切な臨床的推論について徹底的な検査を行った後でも、CSMに関連する非常に小さいが固有のリスクがあることを分析結果は示唆している。

オステオパスと理学療法士も、CSMに関連するAEのそれぞれ11%と4%に関与していたが、CSM がカイロプラクティックの実践で使用される最も一般的な治療介入であり、他のどの臨床医よりもカイロプラクターによってより頻繁に実行されるため、AE発生の69.4%と多くを占めていた。

死亡例が5.2%(7人)あり、4例は予防可能であった。その内、2例は症状の改善が見られないまま複数の矯正を受けていた。

 

アメリカの大学の理学療法科の研究チームによる2012年の論文です。

この中で不適切な首の矯正として、首の症状と直接関係のない病気に対してい首の矯正を施術したことを挙げていましたが、カイロプラクティクに限らず、オステオパシーや一部の理学療法士や、日本で言えば柔道整復師、各種整体師など各種徒手療法で首の矯正は用いられています。これらの界隈では、体は全体が繋がりを持ってそれぞれ遠隔部位からも影響を受けるという思想を持っているところが多いので、そういう考え方からすると必ずしも間違ったことをしているとも言えないのです。

一例を言うと、中耳炎に関して、以前は(Ear infection: a retrospective study examining improvement from chiropractic care and analyzing for influencing factors/J Manipulative Physiol Ther. 1996 Mar-Apr;19(3):169-77.)にあるように、頸椎に矯正は効果があると考えられていました。これは頸部の血流やリンパの流れの悪さが中耳の雑菌の繁殖に繋がり感染を引き起こすという理論があり、頸椎矯正はその解消に役立つと信じられているからです。

今回の論文では、事故の発生は5万分の1の確率で、さらにその中から5.2%が死亡事故の発生とあり、さらにその内の半分は予防可能てあったとしています。ですので、その数が多いと思うか、少ないと思うかの認識により、首の矯正の危険度は人によって違ってくると思います。

 

【カイロプラクティック関連の椎骨動脈解離: 310人のコホート研究における34人の患者の分析】

Chiropractic associated vertebral artery dissection: An analysis of 34 patients amongst a cohort of 310

出典;Clin Neurol Neurosurg. 2021 Jul;206:106665. doi: 10.1016/j.clineuro.2021.106665. Epub 2021 Apr 24.

《概要》

椎骨動脈解離 (VAD) は稀であるが、虚血性脳卒中の重要な原因であり、特に若い患者では重要である。カイロプラクター関連の損傷を受けた患者群を調査し、他の原因のVAD群と比較して予後を判断する目的で研究した。2004~2018年の間の当施設の利用者310人の椎骨動脈解離患者で、後ろ向きチャート・レビューを実施。

310人中34人がカイロプラクティックで受傷。他の原因のVAD患者と比較して、若く(p = 0.01)、女性 (p = 0.003)、併存疾患が少ない (p = 0.005) 傾向があった。損傷の特徴は似ていたが、カイロプラクター関連の損傷は、退院時とフォローアップ時により軽度のようであった。カイロプラクター関連グループには他の原因のVAD患者より割合高く存在したものとして0~2mRSの範囲の損傷が、退院時(p = 0.05)や3か月後(p = 0.04)にあったが、深刻な長期の神経学的影響や死亡に至った患者はいなかった (0%vs.9.8%、p=0.05)。

 

アメリカ・ノースウェスタン大学神経外科2021年掲載の論文です。

14年の間に310人の椎骨動脈解離の患者さんが受診し、その内34人がカイロプラクティックの施術を受けた経験を持っていたという話です。椎骨動脈解離の患者の約1割がカイロプラクティックと関係があったと言えます。特徴としては若年者の女性ということが挙げっています。

全般的に言って、カイロプラクティック関連のVADは、他の原因によるVADと違いはない、と結論づけられていました。個人的な感想として、若い女性が比較的多いということは、首回りの筋肉が未発達、もしくは脆弱であるため、血管周りを保護できないのではないかと推測されました。

 

 

 

 

安全な首の矯正のためのダフィーカイロ式ガイドライン

第1弾、第2弾の情報と、今回ご紹介したリスク発生の研究の情報を踏まえ、首のポキっという矯正は有益ではあるが、微小ながらもリスクもあるということを理解していただけたと思います。そこで、当院ではその事について日頃どのような取り組みをしているかをご紹介していきます。

手順としては、まず矯正の不適応者の鑑別です。次に、矯正適応者に実際に首の矯正を施術する際に、出来るだけリスクを低くして矯正する。この2点です。そして、首の矯正を施すことが有益であると判断された場合においても、無理にポキっというい矯正にこだわる必要はないということも重要なところです。ポキっという矯正は、施術の選択肢の一つにすぎず、ほかにもやり様はいくらでもあります。ただ、効果の出具合大きさや、継続期間に違いが出てきます。

 

1.矯正前の鑑別

①首の回旋可動域検査の時に、めまい感、吐き気、ふらつき、気が遠くなる感じが出ないか?

あれば、ボウハンター症候群や、それに類似した疾患の可能性がるので、首の矯正は禁忌で、脳神経外科、神経内科などに行ってもらう。首の矯正で骨の変形や血管の変形を改善することはないので、カイロプラクティックの適応外です。

②椎骨動脈テスト(バレリュー・テスト)

首を反らして、回旋させた状態で20秒ほど待ちます。例えば、首を左に回旋させ反らすと、右の上部頸椎の血管部が圧迫されるので、血流不全があれば症状の再現が見られます。

これらのテストでは、梗塞型の椎骨動脈障害には反応すると思われますが、椎骨動脈解離は血管壁の損傷だけの場合は、頭痛のみで他の異常所見が無い場合が多いので注意が必要です。

頭痛持ちの人でもいつもと違う頭痛が起こった場合は、一旦の脳神経外科や神経内科、脳ドックなどで受診されることをお勧めします。いつもと違う頭痛とは、いつもは鈍い痛みがメインだが、今回は痛みが激しいなどが該当します。

その他、通常のジャクソン・テストやスパーリング・テストなども行います。

 

2,矯正の仕方

骨のポキっと鳴らす矯正とは何を行っているかというと、メカニズム的には実は指を鳴らすのと大差ないことをやってます。何のために行っているかというと次の目的を達成するために行うのが多いです。

・関節腔のヒダ(メニスコイド)や関節包の癒着を剥がし、関節可動域を広げ、正常な関節の動きを取り戻す。

・関節周辺の深部感覚器(位置感覚などのセンサー)を刺激して、反応を引き出す。

ただ、効果を最大限に引き出すためには闇雲に行ってもダメで、矯正の方向や力加減を調整する必要があります。

関節の矯正の実際を指の関節を使って簡易的に説明します。

PIP(指節間)関節は構造的に曲げるか伸ばすかの2方向にしか動かせません。しかし、横方向にも僅かながら動かせます(動画1)。これは自力では無理で、他人に動かしてもらうことで達成できます。この動きはものすごく小さく関節の遊びといいます。

 

ただこの関節の遊びも、周辺の組織が硬くなり柔軟性が落ちると遊びの範囲も小さくなります。この硬くなった位置からさらに関節の遊びの本来の限界域まで動かそうとする時、関節内の圧が変わり、関節液が気化して弾ける音とともに関節が少し動きます。これがポキっと鳴る矯正のメカニズムです(動画2;音が鳴りますのでご注意下さい)。

 

 

つまり首の関節のポキっという矯正を行う場合も、理想的にはこの指でのデモでお見せしたような微細な動きで出来るようにするのが良いのです。このような僅かな範囲の動きの矯正でしたら、これで血管が切れるから危険だとは通常思わないでしょう。

一般に首のポキっという矯正で危険だとイメージされるのは、首をグイっと大きく動かしたり、急激にボキッとしたり乱暴に扱われているような映像をテレビや動画サイトで流されているためです。

ですが、理想は出来るだけ小さな動きで関節を動かしたいのです。それが低振幅・急圧マニュプレーションといわれるカイロプラクティックの矯正になります。

そのためには、圧を加える前段階に出来るだけ関節にテンションを集めて、先ほどの指の例でお見せしたような関節の遊びの硬くなっている位置までもっていけるかが鍵になります。

首の骨には自分で動ける動きが6方向あり、それは曲げる、反らす、右左に倒す、右左に捻るという動きです。その他、人に動かしてもらえば出来る動きとして離開(牽引)と圧迫(短縮/近接)があります。

背骨の関節の動きは一つの動きをすると、他の動きは制限されます。首の関節の動きで最も抑えたい動きは回旋の動きなので、通常、首の矯正のセットアップには、首の屈曲(曲げる)動きから入ります。

首の矯正には回旋系の圧の加え方と、直線系の圧の加え方がりますが、回旋の動きを抑えるという目的からすると、スラストは直線系でこなした方が無難です。そこで、首の動きは屈曲の次は側屈で関節の遊びを取りに行きます。最後に回旋の遊びを取る方が、回旋の度合いが少なくて済むと思われます。

この位置が一番、矯正したいポイントの関節の遊びを取り除いた位置になります。これを最蜜位といいます。そしてこの時、この位置で少し待って、めまい・吐き気・気が遠のく感じなどの違和感が出ないか再度確認します。

これでOKならそのまま矯正でも良いのですが、この位置を少ししんどいので一旦、首をニュートラルに戻し、そこから再度、最蜜位を作ってから矯正を加えた方が良いでしょう。

 

3.矯正の頻度

破裂や梗塞を起こさなかった椎骨動脈解離は2カ月くらいで血管壁が自然治癒するとの情報から、1回首のCSMを受けた場合には、2カ月間は間隔を空ける方が無難と言えます。

有害事象の発生率は5万回以上の首の矯正につき1回の頻度であり、その内の37%が椎骨動脈解離とすると、1/50000×0.37=0.0000074%の発生率となります。かなり少ないと言えますが、それでも症状ないまま発生してしまうかも知れません。特に若年者の女性は比較的発生リスクが高いので、留意する必要があります。

その様な場合でも2ケ月後には自然治癒している可能性が高いので、それまでは首のCSMはしない方が良いでしょう。連続した首のCSMが椎骨動脈解離を発生させた事例があるためです。

 

当院ではこれらのことを踏まえ首のCSM を行っています。このことにより出来るだけリスク低減を図っています。

 

まとめ

首の矯正は効果があり、その効果を使って体の健康管理に貢献しています。しかし、微小ながらもリスクもあります。それは薬やワクチン、運動などすべての事にベネフィットとリスクがあるのと同じことです。

そこで大事なのはリスクを正しくとらえ、管理していくことです。そのような観点から、最近再び話題になった椎骨動脈解離とカイロプラクティックとの関係について、シリーズで解説記事を作らせて頂きました。

今回は、この辺で。

 

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