産後骨盤ダイエットが成功しない理由
【今回の記事は以前、他のブログ掲載していたものを転載したものです(2017年9月初出)。骨盤伝説シリーズの第8回目。】
今日はダフィーカイロです。骨盤に対する都市伝説=骨盤伝説の第8弾です。
雑誌や、施術院の宣伝では、産後のダイエットには骨盤を整えればOK!みたいにお気軽なフレーズをよく見かけますが、実際にはそれだけではなかなか成功しないのが現状です。その理由と改善法を今回は考えてみたいと思います。
まずは、今回意見を述べるための科学的根拠を先に示します。これらをお読みいただき、次にこれらから導きだされる提案と解説を加えたいと思います。
【産後女性の体重減少のための食事療法、運動、またはその組み合わせ】
Diet or exercise, or both, for weight reduction in women after childbirth.
著者;Amorim Adegboye AR, Linne YM. Cochrane Database Syst Rev. 2013 Jul 23;(7):CD005627. doi: 10.1002/14651858.CD005627.pub3.
【概要】 産後女性の食事療法、運動またはその両方についての発表された物および未発表の無作為化比較試験(RCT)や準ランダム化試験を基にコクラン・システマティックレビューを行った。 910人の女性を含む12本の論文が分析データの対象となった。運動をした女性は、通常のケアグループの女性よりそれ程体重減少が見られなかった(論文2本;n = 53、MD -0.10 kg、95%信頼区間(CI)-1.90〜1.71)。食事療法のみ(論文1本; n = 45; MD -1.70kg; 95%CI -2.08〜-1.32)または食事療法+運動プログラム(論文7本; n = 573; MD -1.93kg; 95% CI -2.96から-0.89;ランダム効果、T2 = 1.09、I²= 71%)は、通常のケアグループの女性よりも有意に減量できた。食事療法単独と食事療法+運動群(論文1本; n = 43; MD 0.30kg; 95%CI -0.06〜0.66)での比較では、体重減少の程度に差はなかった。これらの研究内容により母乳育児能力に悪影響がでることはないようであった。 食事療法のみの場合と、食事療法と運動の組み合わせの場合の両者とも体重減少には寄与するが、食事療法のみの場合の除脂肪体重に比べ、食事療法+運動の場合の方が除脂肪体重が維持できており、母体の呼吸循環の健康が改善されている。
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システマティックレビューは科学的根拠の信頼性としては高い論文です。この論文は今から4年前に出されてものですが、産後の体重減少を目指すのには食事療法(摂取カロリーの制限)+運動療法が最も効果的であり、食事療法のみでも効果があることが判明しました。運動のみではあまり効果的でなかったようです。運動療法で採用されている運動プログラムの多くは有酸素運度(持久運動)であり、60分~90分の連続した運動を取り入れているようです。
【分娩後の体重減少を促進するための授乳期でのエクササイズと食事摂取のバランス】
Balancing exercise and food intake with lactation to promote post-partum weight loss.
著者;Lovelady C. Proc Nutr Soc. 2011 May;70(2):181-4. doi: 10.1017/S002966511100005X. Epub 2011 Feb 24. 【概要】 妊娠中および産後の過剰な体重増加は、肥満の危険因子である。多くの研究が妊娠から維持されている平均体重はわずか0・5~3・0kgであると報告しているが、女性の 14〜20 %は、妊娠前よりも分娩後6〜18ヶ月で5kg重い。正常体重女性の泌乳は通常、体重減少を中程度まで促進するが、BMI≧35(kg / m 2)のものでは減少しない。運動やカロリー制限は授乳中の体重減少を促進するかもしれないが、乳量と組成に及ぼす影響、ひいては幼児の成長を考慮する必要がある。 運動が授乳習慣に及ぼす影響を調べた。適度な有酸素運動(45分/ 日、5日/週)により心血管機能、血中脂質およびインスリン応答は改善したが、分娩後の体重減少は促進しなかった。また母乳量と組成は影響を受けなかった。過体重女性のカロリー制限による運動の幼児の成長への影響も研究されている。分娩後1ヶ月で、エネルギー摂取量を2092 kJ / dに制限し、1日45分の運動を4回/週、10週間行った。食事療法+運動群の女性は、対照群(4・8(sd1.7)kg・0・8(sd2・3)kg)よりも体重が減少した。しかし、幼児の成長に差はなかった。 現在のエビデンスに基づくと、泌乳期の過体重の女性が0・5kg /週の体重減少を達成するためには、エネルギー摂取量を2092kJ / 日に制限し、有酸素運動を4日/週で実施することが推奨される。 |
2011年発表のアメリカ・ノースカロライナ大学グリーンズボロ校栄養学科の論文です。この中では、産後女性の多くは産前の体重より体重増加は3kg以内に収まっているが、2割近くの人で5kg重いままであり、特にBMIが35以上の人は授乳によるカロリー消費の効果が見られず、体重が減少しないと述べています。BMIが35以上というと、肥満度が1~4ある中の3ですから、結構高めです。
この論文では1週間につき500g体重を落とすのに、一日の摂取カロリーを2092kcalに制限し、週4日の運動することが推奨されています。5kgを減量するのに10週間(2.5ヶ月)をかけて達成しています。特に重要なのが、この減量プログラム中に乳汁の分泌量や成分に変化がないというところで、この点を懸念してカロリー制限を躊躇する人がいるので、その心配をしなくてもよいと判明しているのが助かります。
産後のダイエットには食事療法が必要
先にご紹介した論文でも述べられていたように、ダイエットに関してはカロリー摂取の制限が必要です。それは「ダイエットのためには摂取カロリーと消費カロリーの比率の問題」があるからです。以前、当院メイン・サイトのブログにダイエットに関する記事で、このことについて掲載しているものがあるので、詳しくはそちらをご覧ください。
この中でご紹介している日本厚生労働省の食事摂取基準値によると、妊娠可能期の女性の「一日における体重1kgあたりの消費カロリーの平均値」は、18~29歳で23.6(kcal/kg/日)となり、30~49歳で21.7(kcal/kg/日)となります。これにご自身の体重をかけると一日の消費カロリーがわかります。この表では、非妊娠女性の平均体重を18~29歳で50kg、30~49歳で52.7kgで算出しているので、それぞれ平均的な1日消費カロリーは1180kcal、1140kcalとなります(2015年度版では若干数値が違う) 。
これは基礎代謝の基準値なので、実際にはこの数値に日常生活での活動(仕事、家事など)で消費するカロリーを加えます。
基礎代謝のカロリー+日常生活でのカロリー
日常の生活での消費カロリーはどの程度を計算するのには、こちらのサイトを使ってみると良いでしょう。
上記のサイトから代表的な日常動作の消費カロリーを抜き出してみると以下のようになります(体重50kg計算)。
家事の種類 | 消費カロリー |
掃除機をかける30分 | 86kcal |
台所作業(調理・皿洗い・清掃)60分×3回 | 519kcal |
洗濯10分 | 17kcal |
窓掃除30分 | 84kcal |
部屋の整理・雑用30分 | 65kcal |
風呂掃除10分 | 30kcal |
子供の世話60分 | 100kcal |
幼児を連れての買い物40分 | 91kcal |
合計 | 992kcal |
合計で992kgになりました。これに先ほどの基礎代謝分の消費カロリーを加えると2172kcal前後になります。いちいち動作ごとの消費カロリーを計算するのが面倒くさいと思われる方は、厚生労働省から1日の推定消費カロリーが資料でてますので、下記をご覧ください。
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」報告書より
身体活動レベルⅠは低い、Ⅱは普通、Ⅲは高いという区分けで、レベルⅠの人は健康の保持・増進のために活動レベルの増加を求められているレベルです。年代ごとの平均体重で算出されています。
この資料でも、普通レベルの活動度である妊娠可能期の女性の1日消費カロリーは2000kcalくらいと推定されていて、今まで一般的に言われていた数値とほぼ同レベルです。日常動作では800kcalくらいの消費とみているようです。
授乳中に必要なカロリー
前述のように、妊娠可能期の一般成人女性の栄養必要量とされているのが約2000kcalとされているのに対して、産褥期の授乳婦人の栄養必要量は一般的に2500~2600kcalとされています。乳汁産生のため最低でも約350kcalは産前よりエネルギーを大目に摂る必要があるためです。その他、育児の負担分のため若干多くなります。乳汁産生に必要なたんぱく質が20gを必要とされているので、一般女性平均55gのところ75gを摂取する必要があります。
ダイエットのために摂取カロリーをいくら引くか
妊娠中もしくは産前より体重オーバーな人は無理に摂取カロリーを増やす必要はなく、逆に減らす方が良い場合もあります。
妊娠中が標準的な重量増加であるならば、理論上は産前の摂取カロリーに授乳用として350kcalを上乗せすれば良いので、2300~2500kcalとなり、自然と体重は産前と戻るか、減るはずです。しかし、産後ダイエットしなければいけないという人は体重が元に戻らない・増えたということで悩まれているので、減らす必要があります。
先に挙げた論文では、約2100kcalを目処に摂取カロリーを落とすことを提示しています。これはアメリカでの研究なので、日本人に適応させる場合はもう少し摂取カロリーを増減させる必要があるかもしれません。
いづれにしろ、現在のご自身が1日に摂取カロリーがどのくらいあるかを把握しないことには、何も始まりません。
1週間はガンバッテ食べたもの全ての記録をつけ、カロリー計算をしてみましょう。ほとんどの場合は、自分で思い込んでいたカロリー計算とはかけ離れていることを思い知らされるようです。
そこから先ずは基準値である2400kcalにしてみて1ヶ月程度様子をみ、体重の変化が起きるか観察してみましょう。もともと摂取カロリーが2400kcalを下回っているようなら最初からカロリーを減らしていっても良いでしょう。段階的に1日の摂取カロリーを減らしていき、まずは目標値の2100kcalまで減らしていってみてはいかがでしょうか?
今回紹介した論文では、この程度の減量では乳汁の分泌量や、組成、それによる幼児の発育には影響ないということがわかりました。急激なダイエット(1~2ヶ月で達成しようとするような)でない限りは心配ないようです。目標としては3~6ヶ月で5kgほどの減量を目指したほうが無難です。
運動の役割
痩せるための運動は持久系の運動になります。そのためには時間がかかります。時間をかけずに効果を上げたいのであればカロリー制限のほうがお勧めできます。ですが最大限に成果をあげたいのであれば、食事療法と運動の併用に行き着きます。
また、持久運動以外に筋力トレーニングも筋肉の機能を向上させるトレーニングも併用することで様々な効用があります。産後にかかわる有益な部分を次にあげていきます。
心肺機能の向上
筋力トレーニングが筋肉の機能向上や筋肉の量を増やす働きがありますが、有酸素運動では主に心肺・血管機能の向上が有益な効果としてあります。この心肺・循環器系の向上は、体に血を流す機能、酸素を送る機能が向上するということなので、日常生活としては疲れづらくなり、活力を持って1日を過ごすことができるようになります。
腹部のたるみをしめることの促進
妊娠中は大きくなる子宮につられて、腹部の筋肉や組織が引き伸ばされ、産後にそのままであると腹部のたるみの原因となってしまいます。筋肉はトレーニングをすることで緊張を増し、張りを取り戻してくれます。そのためには特殊な骨盤底筋や深部体幹筋のトレーニングをする必要があります。
脂肪を燃焼する効果
体を動かすエネルギーとなる栄養素を3大栄養素といい、「炭水化物(糖質)」「脂肪」「たんぱく質」のことを指します。炭水化物とたんぱく質は1gにつき4kcalあり、脂質は1gあたり9kcalになります。脂質は他の2つに比べ同じエネルギー量を蓄えるのに1/2の分量で済みコンパクトになるので、余分なエネルギーはみな脂質で蓄えられます。
一方、エネルギーの変換には炭水化物=グリコーゲンの方が早いので、まず運動のし始めは血中や筋肉内に蓄えられているグリコーゲンから燃焼されます。20分以上の運動を続けることにより脂肪燃焼の効率が高くなるのでそれ以上の時間の運動をすることを進めします。
推奨する運動
最近、パーソナル・トレーナーのブログなどを中心に、過去のダイエットに関するエビデンスを否定し、新しく出てきた情報を元に「本当に正しいダイエットはコレだ!!」とドヤ顔で言っている人がかなり出てきました。しかし、トレーニング理論というのは本当に次々と新しいものが出てきて、コロコロ内容が変わったりします。いまドヤ顔で言っている人たちも、しばらく経って再び新しい理論がでるとそれに飛びつき、そ知らぬ顔で違うことを言っていたりします。
なので、当院ではとりあえず最初はベーシックな運動プログラムから始めることを推奨しています。基本的には、脂肪燃焼したければ運動強度を上げて時間を長くやると効果がでやすいので、有酸素運動として次の目標を設定しています。
運動強度は最大心拍予備能の60~70%(PERでややきつい)を最低30分~(理想45分以上)で行いう。 運動頻度は週4日(理想は5日)。 |
同時に筋力トレーニングも併用することをお勧めします。筋力トレーニングと有酸素系トレーニングは効果として相反するので、効果が互いに抑制されて併用すると効果的でないと一部で言われていますが、それはある程度トレーニングを実践している人の話で、普段運動習慣がないビギナーの方や、久しぶりの方は両方行えば、両方の機能が向上します。
骨盤矯正の必要性
ここまではセルフで行う内容です。次に他人にみてもらわないとわかりずらい部分として、骨盤の歪みがあります。競技者としてかなり運動をやりこんでいる人は別ですが、たいてい場合、一般的な女性で骨盤が短期間で大きく変化を見せるのは妊娠・出産の時期が一番です。分娩時に産道を開くため、恥骨結合と仙腸関節という骨盤の3つの関節が普段動かないような動きをします。産後にその変位の修復が上手くいけば問題ないですが、残ってしまうと問題に発展してしまうことがあります。
骨盤の閉鎖位が正しくないと、閉鎖力が働きづらい。
骨盤の関節の形状はそれぞれの関節の面同士が合致するようにできており、これが正しく合致していると安定します。この位置を閉鎖位といいます。一方、骨はじん帯・筋肉で締め付けられるようにして固定されています。この締め付けている力をを閉鎖力といいます。位置が正しく収まっていないと、正しく力を発揮・伝達できないので、骨盤の矯正は必要なのです。
骨盤矯正だけ行えば万事うまくいく訳ではない
矯正は閉鎖位を整えるために行うものです。閉鎖力、つまり筋肉で支えることは筋肉が働くように訓練する必要があります。これが骨盤底筋トレーニングや、体幹筋トレーニングになります。
産後の骨盤ダイエットを成功させるための要点
次の3要素が三身一体となり、最も効果的と考えます。
①摂取カロリーの制限をベースにおきます。 ・極端な、もしくは短期での減量でなければ母乳にたいする影響は見られない。 ・体調を崩すようなバランスの悪い栄養の摂取の仕方は、長い目で見ればリバウンドを引き起こし意味がない。 ・毎日の食事の記録をつける。 ②運動を併用する。 ・ややきつめの運動の有酸素運動を行う。 ・日常生活の負荷で痩せようとし、実際痩せた人を見たことはない。ある程度負荷量を上げる。 ・筋肉トレーニングも併用する。 ③骨盤の矯正をしダイエット効果が発揮しやすい下地を作る。
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まとめ
エネルギー燃焼のための細かい理論を解説するとかなり長くなるので、今回は割愛させていただきました。腹直筋離開で腹部のたるみが取れない方も、摂取カロリーがオーバーしていて脂肪がついてきてしまった結果のたるみである方が多くいます。産後に体重増加が元に戻らないと嘆かれている方で、今回の記事で当てはまる部分があれば参考にしてみてください。
さらに話を進めていくと、実は妊娠前、妊娠期間中から産後ダイエットは始まっているとも考えられます。特にこの分野は、妊娠糖尿病や産後の糖尿病のリスク予防の観点から研究されています。また、機会がありましたらその点のご紹介をしていきたいと思います。
では、今回はこの辺で。
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