回旋腱板断裂による肩の痛みとは

 

前々回に引き続き肩の痛みの解説第3弾です。今回ご説明する腱板損傷は、前回お話したインピンジメント症候群と重複した部分が多くあるので、先に前回の記事をお読み頂くことをお勧めします。

インピンジメントのメカニズムについて→「五十肩による肩の痛みとは

セルフケア法→「四十肩・五十肩に対するセルフチェックとセルフケアの方法

今回の内容は
1,回旋腱板断裂のメカニズム
2,セルフチェック法
3,セルフケア法
となっています。

肩峰下のインピンジメントがさらに悪化し、行きつく先が腱板損傷と言われています。

腱板の損傷には部分断裂と完全断裂があります。

 

 

回旋腱板について

肩の表面は三角筋という筋肉で覆われています。その筋肉の深層には肩を安定させて、内旋や外旋をする筋肉群が肩関節の周りに付着しています。そこでは筋が腱にになり、それが広く板状に付着しているので回旋腱板(ローテータカフ)と名付けれれています。

肩関節の真上から付いているのが棘上筋の腱でその後ろ寄りに棘下筋の腱、その後ろ側に小円筋の腱が付着しています。肩関節の前側には肩甲下筋が付着しているのですが、特に肩関節の前上部は棘上筋と肩甲下筋の間をなし、腱板が薄くなっているため「腱板疎部」と言われて、この部位は特に損傷しやすいと考えられています。

 

腱板の断裂について

40代以降に発生し、若年者の発生はあまり見られません。死体解剖による研究や、肩に痛みのない人の研究により、全体の30%くらいの人には腱板の断裂が見つかりました(多くは部分断裂)。

また他の研究では、年齢が上がるにつれ断裂発生率も相対的に上がり、かつ完全断裂の割合も増えてくると報告されています。年齢が上がるにつれ、肩峰の底面の形状が変形してくるので、それが腱板の挟み込みに影響していると考えられています。腱板自体の加齢による変性も断裂の原因の一つになります。

ただし、肩に痛みがなくても腱板断裂が20~30%の人にみられるので、それ自体が痛みの原因になるかはわかっていません。

腱板断裂は放っておいても小さな部分断裂では修復されることもありますが、ある程度いくと治らずそのままの状態です。逆に断裂幅が広がる可能性もあります。ただ、断裂と痛みとの関連性がいまいちはっきりしていないので、放置していても痛みが減る人もいます。そのような人は日常生活では支障なくても、関節を大きく動かそうとすると痛みが出ることがあり、スポーツをする際、弊害となることがあります。

 

上腕骨頭前方変位

肩峰の下で腱板や滑液包が挟み込まれる(インピンジメント)の原因として推測されるのが上腕骨頭の上方変位です。それと並んで、もう一つ原因と目されているのは、上腕骨頭の前方変位です。上腕骨頭が正しい位置より少し前にズレていると、烏口肩峰アーチ(参照)に肩関節の上前部側が押し付けられる形になるのでインピンジメントを引き起こします。

図1,正常時、左肩模式図

 

 

上の図では左肩を上からみた図です。正常時では腕を前に出した時、骨頭の中心は肩峰の下で安定しています。

図2、上腕骨頭前方変位

肩峰と烏口突起との間にじん帯が張っていて烏口肩峰アーチという構造が形作られていますが、上腕骨頭が前方に変位すると、そのアーチに骨頭が近づき、その間にある組織(腱や滑液包)が挟まれてしまいます。

上腕骨頭が前方にズレてしまう原因は2つ考えられます。

1つは、関節包前部や大胸筋や肩甲下筋など肩関節の前側の組織がが硬く縮こまっているため、骨頭を前方に引き出した形で固定されてしまっている状態である。

 

もう1つは、関節包後部や小円筋・棘下筋など肩関節後部の組織のが硬く縮こまっているため、骨頭を前方に押し出している状態である。

骨と骨の連結は、関節包という膜で骨の接合部が包まれて繋がれています。さらにそれを補強するように部分的に膜が厚くなり靭帯となります。その外側には関節を前側と後ろ側からそれぞれ付着する筋があります。これらのどちらかが硬くなり働きが悪くなると、腕を動かした時に上腕骨頭の位置異常が起こります。

例えば猫背だと、肩が常に前に移動した形で固定されています。この時、関節包の前側も縮こまった状態が続くので、そのまま硬くなってしまうことがあります。また、投球動作など腕を大きく振り回す動きを多用するスポーツを行っていると、使い過ぎで肩の後ろの筋が硬くなり、同時に関節包の後ろも縮こまってしまうことがあります。

回旋腱板の損傷にこれらの要因があるようなら、その改善を図る必要があります。

 

チェック法

肩後面

肩関節後部の筋の硬さがある場合、ガッツポーズをしたところから肩の内旋させる動きや、腕を水平に上げた状態から内側に向ける動き(志村けんのアイーンのポーズ)が制限されます。これらの動きは小円筋・棘下筋が伸ばされるので、硬いとできません。

肩関節外転90°+内旋

やり方

①検査する方の腕を肩の高さまで上げる(外転90°)

②肘を90°に曲げて手のひらが足の方向に向くようにする(図①)。

③上腕を軸にして、手を下に移動するように捻じる(内旋)(図②)。

 

肩関節水平屈曲

やり方

①検査する側の腕を正面に向けて伸ばす(前習いのように)。

②手のひらを下に向けて肘を曲げ、反対側の手で肘を持ち、胸に近づけるよに引き寄せる。肩後面を伸ばす。

 

肩関節包後面

関節包が硬くなっていて上腕骨頭が前に押し出されるようになっている場合は、実際に上腕骨頭を後ろに移動させて、肩の可動域が改善するかで判断します。

やり方

①上記の肩の水平屈曲時、自分の手で検査側の肘を後ろの外側に向かって押し込み、上腕骨頭を後方に移動させる。自分の腕で押すのに苦労する場合は、壁などに肘を押し付け、肩を押し込んでも良い。

②①を数回繰り返し、その後、肩関節外転90°+内旋や、水平屈曲の可動域テストを再度行い、可動域が広がるようなら肩関節包後部の硬さがあると判断する。

 

肩前面

肩甲骨を固定したいので仰向けになるか、壁に背を付け座った状態で検査します。関節包や肩甲下筋、大円筋などがかかわってきますので、3つのポジションを連続的に調べます。

やり方

①検査したい側の肘を90°に曲げて、脇に付け、指先は前をむく (小さな前習い状態になる)。手の平は内側に向く(図①)。

②肘を脇に付けたまま、手を後ろに動かし外旋させる。45°以上動かせて正常(図②)。

③今度は①の状態から、肘を脇から離し、肩を45°の角度でキープ(図③)。

④上腕を軸にして、②のように手を後ろに動かし外旋させる。70°以上動かせて正常(図④)。

⑤次に③の状態から肩の角度が90°になるよう上げて、腕が肩のラインと水平にする(図⑤)。

⑥そこから手を後ろに動かし肩を外旋させる。50°以上できて正常(図⑥)。

 

セルフケア法

私が所属しているNSCAの情報誌に肩関節後部の硬さの改善に関する記事が掲載されており、それが一般公開されていますので、ストレッチ法の詳細はそちらをご覧ください。

https://www.nsca-japan.or.jp/journal/19_8_53-57.pdf

ここでは簡単に解説していきます。

基本的にセルフチェックでやった方法が組織をストレッチする方法なので、セルフケアも同じ動きをします。ポイントは肩甲骨が動いてしまうとストレッチ効果が減るので、肩甲骨を床や壁に押さえつけて動かないようにします。

 

肩後面のストレッチ

スリーパー・ストレッチ

やり方

①ストレッチしたい方の肩を下にして横向きでねる。

②下側の腕を肩の高さまで上げ(肩を直角の角度に上げる)、手のひらを足の方に向けて、肘を90°に曲げる(図①)。

③手の平を床に近づけるよう倒す(外旋)(図②)。

④20~30秒キープ。

 

クロスアーム・ストレッチ

座っても、立っても、横向き寝でもできます。座位や立位でやる時は、肩甲骨を固定するために壁などに肩甲骨を押し付けて行ってください。横向き寝ではストレッチした方の肩を下にします。

やり方

①伸ばしたい方の腕を体の前に伸ばし、手のひらは足の方へ向ける。

②反対の手で肘を持ち、胸の方に引き寄せて、肩の後ろを伸ばす。

 

関節包後部モビリゼーション

①四つん這いになり、出来るだけ背筋をまっすぐにする。

②関節包後部が硬い片側に上半身を水平にスライドさせて、ちょうど腕が内側(内転)に向くようにする。

③スライド側の肩に体重を乗せるようにして、上腕骨頭が押し込まれる感じを作る。

④上半身を正中のポジションに戻す。

⑤②~④を数回繰り返す。

 

肩前面のストレッチ

 

やり方

①手のひらを前に向けて、腕を体の外側に90°上げて、肘を90°曲げて、立つ(いわゆるガッツポーズ )。

②手を壁などにあてがい、肩前面がストレッチされるように、肩を前に押し込む。

③20~30秒キープ。

①のポーズがキツイ人は肘は曲げずに、腕を伸ばしただけの姿勢で手を壁にあてがい、肩を前面に押し込みます。肘を曲げるポジションより肩の前のストレスが減ります。

 

筋トレ

上記のような硬さを取るエクササイズをした後、前回ご紹介した筋肉のバランスを整えるエクササイズを行って頂くと効果的です。

 

フォームの修正

スポーツ障害として腱板断裂が起こった場合は、問題を起こすフォームを修正しないと、治りが悪いばかりか、復帰しても再発する可能性が高いです。コーチなどと相談して動作の問題点を洗い出し、フォーム改善に取り組んでください。

 

まとめ

回旋建販断裂は、若年者であればスポーツ障害として起こり、40代以降では加齢による変性で起こりやすいとされています。いづれにしろ、回旋腱板の損傷が進行して断裂に発展するので、前回と前々回の記事を参考に予防することをお勧めします。

次回は、肩関節の関節唇損傷について解説をしていきます。

今回はこの辺で。

 

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