自律神経と脈拍、血圧について
当院では、自律神経が調子悪いと来院される方が多くいらっしゃいます。その場合、自律神経系の検査として脈拍・血圧などの循環器系の調子をモニターとしてよく使用します。今回は、自律神経と脈拍・血圧との関係をお話して、その有効性をご紹介したいと思います。
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1、プロローグ
よくある施術院の自律神経失調の人への対処はこのような感じです。
モミモミ、もしくは頭蓋骨いじったりして、
施術者「終了しました。気分はどんなかんじですか?」
クライアント様「何か、いい感じです。」
……
大抵はこんな感じです。
しかし、これだけだと本当によくなったかどうかは判断できません。相手の気分次第になってしまっているからです。ですので、しばらく良くなったといっていたな思っていたら、ある日突然「今、絶不調です」と言ってきて、振り出しに戻ったように思われるのです。
2、自律神経の改善に何故、検査が必要なのか?
人は、日々色々な刺激を周りの環境から受けています。そのためその時々で体調の出方も変化があるのです。その1ヶ1ヶの現象を拾っていってると、全体的に改善傾向にあるのか、悪化傾向にあるのかが振り回されて分からなくなってくるのです。そこで、当院ではなるべく客観的に状態を判断できるように検査を重視して行っております。
脈拍や血圧は、心臓の状態を反映しています。心臓は自律神経でリズムを調整されています。したがって、脈拍や血圧を見る事は、自律神経の調子を見ることの一つの手がかりになります。
3、脈拍とは?
脈拍とは、心臓が収縮したり、広がったりという鼓動という動きが、動脈を伝わっていく事をいいます。その伝わってくるリズムを動脈に触れる事により計ります。
3-1、心臓の構造
心臓は2階建ての4部屋構造に例えられます。上の階の部屋を心房といい、下の階を心室といいます。それが左右にあります。つまり、右上にあるのが右心房、右下にあるのが右心室、左上が左心房、左下が左心室となります。
そして右上にある右心房に入り込む大静脈の血管の根元に、鼓動のリズムを決めている洞結節という特殊な心筋組織が存在し、そこがペースメーカーとなっています。2階の右心房から1階の右心室へ血を通す三尖弁という入り口があります。このところには、房室結節という特殊心筋があり、洞結節から伝わってきた収縮信号がここに伝わり、ここでも鼓動のリズムを生み出す役目を担います。
心臓では、2階の心房は血液が入ってくるところで、1階の心室は血液を送り出す役目があるので、一概に心室のほうが筋肉が厚くなっています。右側の心室は肺へ血を送り出し、左側の心室は全身に血を送り出しています。
3-2、脈拍
左心室から全身に血を送りだす出口のところを大動脈弁といいますが、この大動脈弁が開いたところから、左心室の収縮が終わり弁が閉じたところまでの間に80mlくらいの血液が送り出されます。これが波状に血管を通っていき、血管を押し広げていきます。
血管自体も弾力があるので押し広げられると、戻ろうとします。このような状態が血管の末梢まで伝わっていくのです。それを手首などの血管を触ると脈拍として触れる訳です。
脈拍は、正常では1分間に60~100回といわれ、100以上を頻脈、50以下を徐脈といい共に心臓の機能異常が考えられます。頻脈の場合は、動悸・息切れ、呼吸困難、顔面蒼白、意識低下・消失などの症状が現れます。また、徐脈の場合はめまい・ふらつき、意識消失などの症状がみられます。
3-3、心臓の自律神経支配
洞結節や房室結節は自律神経の支配を受けています。交感神経系は心拍・心臓収縮を高め、副交感神経(迷走神経由来)は逆に抑えます。2つを合わせて心臓神経といいますが、右側の神経は、洞結節と心拍数の調節をメインに行い、左側の神経は房室伝道と心室収縮の調節をメインで行います。
心臓支配の交感神経は第1~7胸髄(特に1~3が強い)からでていて、迷走神経は延髄からでています。
また、交感神経は副腎髄質も興奮させてアドレナリン・ノルアドレナリンを分泌させ、これによっても心拍・血圧を増加させます。
4、血圧とは?
血圧とは、血管壁にかかる血液からの圧力の事です。
心臓が収縮し、左心室から血液を送り出す時に圧力が高まります。この時の最も値が高くなったところを収縮期血圧(最高血圧)といいます。そして、左心室の大動脈弁が閉じて、血液が送り出されなくなると動脈にかかる圧力が弱くなります。拡張期血圧(収縮期血圧)といいます。
血圧には心臓から送り出す血液の量(心拍出量)と血管の抵抗が関係します。心拍出量は、心拍数が増えたり、心臓の収縮力が強くなるとそれに伴って増加します。交感神経は心拍数を増加したり、心臓の収縮を促したりするので血圧を高める作用があります。副交感神経は心拍数を抑え、心臓収縮を抑えて血圧を下げる作用があります。
末梢血管の抵抗力は、交感神経の働きで血管が収縮すると、抵抗が増して血圧上昇に働きます。胎盤を除く全身のほとんどの血管を交感神経は支配しています。
逆に血管を広げる神経は、ごく一部の副交感神経と、強度のストレスにさらされた時に防衛反応として、すぐ動けるようにするため筋肉の血管が拡張される時に一部の交感神経が働くのみです。つまり、大体の全身の血管は常に交感神経のみに支配されていて、その締め付け具合をきつくしたり、緩めたりという加減をしているという訳です。
その他、血圧に関係する要因は他にもありますが、今回は自律神経との関連に的を絞ってのお話なので、それはまたの機会にお話したいと思います。
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5、自律神経と脈拍、血圧の関係
交感神経の中で心臓や血管の運動を調節している親玉みたいなところは、延髄(頭と首の境のすぐ上の頭蓋骨の中に入ったところ)にある網様体とよばれる部分にあります。副交感神経では、前述のとおり延髄にある迷走神経運動核とよばれるところがそれに当たります。そしてこれらは、視床下部や大脳から影響を受けています。
当ブログ「自律神経失調の原因」内の「自律神経の反射作用」の記事でもご紹介しましたが、自律神経は無意識的に、自動的に複数の反射によって成り立っています。心臓・血液系統の自律神経の反射は以下の通りです。
5-1、頚動脈洞・大動脈弓の高圧センサー
頚動脈にある圧力センサー(頚動脈洞)や大動脈が心臓から出てすぐの曲がり角(大動脈弓)にある圧力センサーで血圧を察知し、頚動脈洞は舌咽神経が、大動脈弓圧力受容器からは迷走神経求心線維を通じて情報を中枢へ送り、圧力がかかり過ぎていると副交感神経(迷走神経)を介し、心拍を下げようとします。
5-2、心房・肺の低圧センサー
右心房・左心房の周りや肺にあり、心拍数や血液量をモニターしています。これらは血圧低下時に反応し、迷走神経求心線維を介して中枢に情報を送り、交感神経が腎臓に働きかけ、ナトリウムと水分の再吸収を増やして、血液量の増加を図っています。
5-3、頚動脈小体・大動脈小体による化学受容器
頚動脈(頚動脈小体)と大動脈(大動脈小体)の血管壁には酸素・二酸化炭素、ペーハーなどを察知するセンサーがあり、それも血圧調整に関係します。頚動脈小体からは舌咽神経を介して、また大動脈小体からは迷走神経を介して情報が中枢へ伝わり、自律神経の働きを促します。
6、当院のバイタルサインの活用の仕方
心臓・血管などの循環器系の自律神経の働きには、上記のような反射活動が土台としてありますが、そこを評価する事で自律神経系がキチンと機能が正常に働いているかを検査することができます。そのことについては以前ブログで書いた「自律神経の検査」の記事内に述べています。
この記事でご紹介した検査項目は、病院などの医療機関での検査内容ですが、当院でもそれに準じて検査を行っています。特に自律神経系のテストでは、血圧・脈拍のテストが簡便で、比較的反応が分かりやすいので、当院でもそちらをメインに利用しています。
一例をご紹介すると、寝てから立ち上がった時の血圧・脈拍の変動を測る起立試験というのがあります。立ち上がった時に瞬間的に血圧低下が起り、頭部への血流を一定に保つために心拍が上昇しなければいけないところを、その反応が鈍い場合、心臓の迷走神経と交感神経の機能障害が考えられます。また、一定時間をおいても心拍・血圧が正常域に戻らないのも自律神経系の異常が考えられます。
7、まとめ
とかく整体やカイロなどの検査機器には、値段が高い割には果たして科学的根拠がどこまであるのか定かではないものが結構あります。そのような意味もあり、なるべく当院では、科学的根拠に重きを置いて検査項目を選んでいます。
今回は、当院で行っている自律神経系の機能検査の一例を、循環器系を中心にご紹介してみました。この情報が、皆様に何かしらお役に立てれば幸いです。