今回のタイトルの件「クラシック・バレエは側弯症を引き起こすのか?」ですが

答えるならば「はい」です。

実際には、限りなく「黒」に近い「グレー」といったところでしょうか(笑)。

 

 

 

側弯症とは?

側弯症とは背骨が側方へ捻じれる病気です。先天的、病気による側弯もありますが、全体の8割以上は突発性側弯症といい、原因が不明のまま起こります。多くが女性に起こり、男女比1:5~7といわれています。また,思春期(10歳以降)に発症するものが8割で、そのうち成長期が終われば側弯の程度が進行しないものが半分くらいで、3割~半分くらいが進行するといわれています。側弯の角度が強いものほど進行のリスクが高まり、その境界線としては25°とする場合が多いです。

また側弯症には構造的側弯症と機能的側弯症というわけ方があり、機能的側弯症は前屈すると側弯が見られなくなるもので、骨自体に変形があるものではありません。筋肉の緊張の不均等や、足の長さの違いによるもので真の意味での側弯症ではありません。一方、構造的側弯症とは骨の配列自体に変形が出てしまい、突発性側弯症といえばこちらを指します。

側弯症は軽度の場合目立ちませんが、程度が強くなるにつれ見ため上の問題や、さらに悪化すると内蔵機能の低下や背中の痛みに発展します。

 

photo credit: anabananasplit Escoliose via photopin (license)

 

側弯症の発症の原因には、もともと不明だったため都市伝説的にいろいろと取りざたされてきました。しかし、特定のスポーツで発症率が高いことが経験的にわかっていました。それがクラシック・バレエです。また、遺伝的要因も近年判明してきました。そのいくつかをご紹介します。

 

側弯症の遺伝的要因

今までも側弯症の発生には家系的な要素が指摘されていましたが、それが本当かどうかは解っていませんでした。しかしここ数年で理化学研究所を中心として共同研究グループによりその遺伝子がいくつか特定されました。思春期突発性側弯症(AIS)の発症のしやすくする遺伝子「LBX1」「GPR126」「BNC2」、AISを進行させる遺伝子「MIR4300HG」、東アジア人における先天性側弯症(CS)の発症にかかわる遺伝子「TBX6」などがそれです。

私は詳しい説明はできないので、ご興味のある方は下のプレスリリースをご覧ください。

思春期特発性側彎症(AIS)発症に関連する遺伝子「BNC2」を発見

側彎症の進行に関連する遺伝子を発見

先天性 側弯症 (CS) の 10%は「TBX6」遺伝子が原因 

 

側弯症とクラシック・バレエの関係

【若年のバレエ・ダンサーにおける突発性側弯症と骨折。遅発初経と続発性無月経の関係。】

 【Scoliosis and fractures in young ballet dancers. Relation to delayed menarche and secondary amenorrhea.

著者;Warren MP, Brooks-Gunn J, Hamilton LH, Warren LF, Hamilton WG.

N Engl J Med. 1986 May 22;314(21):1348-53.

【概要】

4つのプロのバレエ団に所属する75名のダンサー(平均年齢24.3才)の調査により、側弯症の羅患率が24%であり、それは初潮の年齢が遅くなるほど羅患率も増加する。側弯症がない51人のダンサーのうち31人(54%)と比較して、側弯症があるダンサー18人中の15人(83%)は、遅発初経(14歳以降に迎えた)があった。側弯症があるダンサーは続発性無月経の傾向が少し高く(44%vs38%)、無月経の期間がより長く (11.4 +/- 18.3ヶ月 vs. 4.1 +/- 7.4 ヶ月)、アンケート上で摂食障害の行動をとっていると評価される項目で高い点数を出した。

 

骨折の発生率は61%(75人のダンサーのうち46)であり、それは初潮年齢が上がるのに伴い増加した。骨折の 69%はストレス骨折(主に中足骨内)であり、その発生は初潮年齢の増加とさらに相関があった。続発性無月経の発生率は、ストレス骨折をしているダンサーのなかでは2倍近く高く、発症期間もより長い傾向にある。内分泌系の検査を受けた10人中7人のダンサーは、無月経期間は長期の低エストロゲンという特徴を示した。

これらのデータは、長期の低エストロゲン状態を反映したものとしての遅発初経と無月経症の間隔の遅延は、側弯症やストレス骨折にかかりやすくしているということを示唆している。

日本では初潮の平均年齢は12.3歳とされています。一般的には、10歳~15歳といわれているので、14歳が遅いかどうかはちょっと判り兼ねます。摂食障害の傾向があるので、低栄養状態であり、エストロゲンが低いレベルにあることでホルモンバランスが崩れ、生理不順、骨粗鬆症、側湾症が出ると考えられています。

日本やアメリカでは側弯症の発症率は全人口の2%といわれています。そう考えると、このプロのバレエ団の発症率が24%というのがいかに驚異的な発症率かお分かりになると思います。

 

先にご紹介した日本の共同研究グループの側弯症に対する一連の研究の中で、生活習慣との関連も調査した研究も本年度になり出されました。しかもそれは以前より指摘のあったクラシック・バレエと側弯症の結びつきを強める結果でもありました。今度はそちらもご紹介します。

 

思春期特発性側弯症との関連する身体活動および生活習慣

Physical activities and lifestyle factors related to adolescent idiopathic scoliosis

著者:渡辺航太、道川武紘、米澤郁穂、高相晶士、南 昌平、曽雌 茂、辻 崇、岡田英次朗、
阿部勝巳、高橋政道、朝倉敬子、西脇祐司、松本守雄

J Bone Joint Surg Am. 2017 Feb 15;99(4):284-294. doi: 10.2106/JBJS.16.00459.

【概要】

学校で1次側弯症検診で「疑いあり」とされ、2次検診を受けた女子中学生(心疾患、神経学的疾患、先天性脊柱異常を有する学生を除外した)2,600  人を対象として調査・分析をした。生徒や保護者に対して、身長や体重、スポーツ歴、家庭環境、母親の妊娠中の状況、出産の状況、出生後の発育など38項目のアンケート調査(回答率99.6%)と聞き取り調査を行った。立位でのX線写真にて15°以上のコブ角を有するものを側弯症と定義し、解析した。

通学鞄の種類(肩掛け、リュック)、鞄の重さ、楽器の演奏とその種類、勉強時間、寝る姿勢、睡眠時間、ベッドか布団かなどの生活習慣と側弯症とは有意な関連はなかった。痩せ傾向の女児に側弯の傾向が多い(BMI 18.5~24.9 /標準体型に対して、 BMI18.5 未満の側弯の発症リスクは 1.38倍)。母親が側弯症ではない子に比べ、母親が側弯症の子は発症するリスクが約1.5倍。

クラシックバレエをしたことがない生徒と比較して、したことがある生徒の側弯 発症リスク は1.3 倍と発症しやすくなっていた。バスケットボールやバトミントンをしている生徒は側弯 発症リスクがそれぞれ 0.69 倍、0.61倍と低下し、発症しにくくなっていた。

クラシックバレエ未経験者と比較して 7 歳未満で習い始めた場合の側弯 発症リスク が 1.38 倍であり、経験年数の増加、練習頻度の増加は、側弯発症リスクを増加させていた。その他のスポーツと側弯の有意な関連は認められなかった。バレエの結果、側弯になったのか、側弯になるようなやせ形の子がバレエを続けているのか、低 BMI が続いた結果として側弯症になったのか、側弯症だから低 BMI なのかは不明。

結論として、思春期突発性側弯症(AIS)と生活習慣関連因子との間に関連性は見出されなかった。しかし、クラッシク・バレエの訓練、側弯症の家族歴、および低BMIは、AISに関連している可能性があるといえる。

慶應義塾大学医学部整形外科学教室の松本守雄教授、渡辺航太専任講師、国立環境研究所の道川武紘研究員、東邦大学医学部社会医学講座衛生学分野の西脇祐司教授ら側弯症生活習慣研究グループによる2017発表のものです。

この報告によると、従来いわれていたカバンの持ち方が悪いから側弯症になるとか、寝ている姿勢や、寝具の種類の違いで側湾症になる、というような生活習慣による因果関係は「ない」ということがわかりました。

側弯症と関連するリスク要因は「痩せていること」「遺伝性があること」「クラシック・バレエをしていること」「クラシック・バレエを始めた年齢が早ければ早いほど、経験年数が長いほど、練習頻度が多いほど側弯症は悪化する」ということでした。

側弯症の発症リスク要因が洗い出されたということは、側弯症を避けるためにはリスク要因を避ければ良いということにつながります。そのための一つの指針になる報告です。

 

考察

側弯症の発症には遺伝的要素があると述べられていますが、それが全てではありません。このような報告があります。

ギリシャでのシンクロナイズド・スイミング競技の上級アスリートである一卵性双生児(13.5歳)の症例報告「The role of exercising in a pair of female monozygotic (high-class athletes) twins discordant for adolescent idiopathic scoliosis.」(Spine. 2008 Aug 1;33(17):E607-10. doi: 10.1097/BRS.0b013e31817c4ef3.)では、姉妹の1人は思春期 特発性 側弯症(コブ角で32度の左胸腰部曲線)であったが、もう1人は側弯症がなかったとされています。

つまり、側弯症の発症には遺伝的な要素だけではないことを示しています。発症には複数の要素が関与しているのです。その一つとして、ある特定のスポーツが側弯症と関連するのではないかという指摘が以前からありました。

2015年に発表された論文でも同様のことが述べられていて、「Physical activities of Patients with adolescent idiopathic scoliosis (AIS): preliminary longitudinal case-control study historical evaluation of possible risk factors.」(Scoliosis. 2015 Feb 18;10:6. doi: 10.1186/s13013-015-0029-8. eCollection 2015.)では、「ダンス、スケート、体操、空手、サッカー、ホッケー」が関連ありそうとの指摘されていますが、これをみるとできるスポーツがなくなってしまいますね(笑)。

たぶんこれは極端な例で、一般的に女子に側弯症が特異的に発症するスポーツとしては、「新体操」「クラシック・バレエ」「競泳」の名前が挙がります。「バレエ」と「新体操」は側弯症との関連の研究がいくつかでています。その一つとしてブルガリアの新体操の訓練生100人の調査「Scoliosis in rhythmic gymnasts.」(Spine . 2000 Jun 1;25(11):1367-72.)で側弯の発症率12%と高いことが報告されています。

これと比べてもクラシックバレエの発症率は24%とダントツですが、いままでのことを踏まえると次のことが言えると思います。

 

①低IBM(痩せ型の人)とクラシック・バレエの組み合わせは側弯症発症のリスクが上がる。

②極端に柔軟性を求められる競技で発症リスクが上がる。

③親が側弯症だと発症リスクが上がる。

 

こららは何を意味しているかを考えると、次のような解釈ができます。

 

①審美的競技により、痩せていることが良いと刷り込まれて、摂食障害などの低栄養状態になり、ホルモン状態不良に陥り、骨の発育問題が出ているのではないか?

②痩せていることにより、骨を支持するための筋力が弱く歪むのではないか?

③極度に柔軟性が求められており、関節を支える力が弱い、または関節を生理的な正常位置に保つことができず側弯症につながっているのではないか?

 

バレエ教師の中には「側弯症になるのは指導の仕方が悪いから」と思われている方もいますが、プロクラスのエリート・ダンサーの側弯発症率を鑑みると、ハイクラスの指導を受けていても高い発症率が示されるということは、そもそものバレエの競技特性によるものと考えられます。

審美的競技の問題点として成長期の栄養不良については、以前に別ブログで記事を掲載させていただきました。そちらをご覧ください。

 

クラシック・バレエ単独の要素で側弯症になるかどうかはわかりません。複数要因がかかわっているとみるのが妥当ですが、特に低体重、家族暦がある人は、その点を注意しておく必要があると考えられます。

いままでの内容を踏まえた結論として、ヘルスケアの観点からこれからクラシック・バレエに取り組もうとするお子様や親御様に言えることは、

 

将来、プロを目指しているのなら幼少期より取り組むべきだが、

プロになりたいとかいう訳ではないのなら、成長期が終わってからでも

いいんじゃない?

…ということです。まあ、側弯症対策という点に関してのみの提言ですが…。

 

まとめ

実際、そのスポーツをやるやらないは、趣味趣向、ご本人やご家族の考え方・意向などあるので一概に言えませんが、そういう事実があるということは知っておいて損はないと思います。そういう事があるということを知っていれば、おのずと何を対策するば良いか分かってきます。

今回はそのような意味での啓蒙記事でした。

では、今回はこの辺で。