施術者のやりたい事VSクライアント様の希望

【今回の記事はブログ統合のため、他ブログより転載しました(初出2018年9月)。】

 

 

手技療法には、本当にいろいろな流派や主義・主張、理論、テクニックが存在します。私自身、そういった色々のテクニックや勉強を習うのが好きでセミナーなどによく参加しています。しかしこのような場合、注意が必要です。セミナーに参加すると多くの参加者は内容に感化されて、そのことが「正しいこと」となってしまいます。つまり、それを「どうしてもやらなきゃ」と思いこんでしまうのです。

しかし、クライアント様自身が本当にそれを望んでいるかどうかは別です。本当にそれがクライアント様に必要であれば説明して是が非でもやっともらうのも良いでしょう。一方、絶対にそれが必要か不確かであるにも関わらず強要するのも如何なものかと思われます。無駄に時間を消費して、結局成果が上がらないということにもなりかねます。

 

教わったことが全て正しい訳ではない

この手技療法という世界では、単純なことを複雑怪奇に解釈してしまったり、うがった見方をして本質からズレていってしまったり、というのをよく見かけます。たま~に当てはまって効果的であったテクニックがあったとしても、上手くいく頻度が低いとその内淘汰されて自分の中で使わなくなってきます。そういうのが今まで無数にありました。

あと、よく感じるのが教えている側の環境と、教わっている側の環境が違っていて、あまり当てはまらないっていうのもあります。

例えば、骨盤の仙腸関節由来の腰痛のセミナーに出席したとしましょう。その講師は仙腸関節性腰痛の第一人者の医師だとします(分る人はすぐピンッとくるでしょう!)。その病院では、腰痛を訴える人の原因の6割は仙腸関節である、とおっしゃいます。

ふむふむ、そうか~。腰痛を訴える人がきたらとにかく仙腸関節を徹底的に突き詰めてみよう。と、仙腸関節のアプローチに固執してしまうと、実は本当は違うところに原因があったのを見落として、いつまでも効果の薄い施術を続けてしまうかも知れません。

先のお医者さんのところは、他の医療機関で仙腸関節の問題を見落とされていたため、いつまでも腰痛が治らず、最終的に訪ねてくる人が多いと思われます。つまり、必然的に仙腸関節の問題を抱えている人の密度が高くなっているのです。ですが、世間一般的な腰痛の原因で仙腸関節が占める割合は、せいぜい2割くらいでしょう。

立場が違えば、ものの見方も違ってきます。

 

施術の内容を決めるファクターとは

まとめると、

そのテクニックが本当にそのクライアント様に必要かを考える。代替でできることもいっぱいあります。効果が不確かなのに、いかにもそれが絶対必要みたいに思い込んでいる施術者がいっぱいいます。

クライアント様の希望がそこにあるかも考える。結局、有効的なテクニックやプロトコルも受けてご本人の「やる気」がないと始まらない、ってことですね。

そして、テクニックやプロトコルは使いこなすものであり、それに振り回されないようにしないといけないと思います。

 

実際の事例で

実際の当院の事例でこのことを見ていきましょう。

まずはこちらの動画をご覧ください。

 

この方は20代の女性です。右手の指がプルプル震えていますが、この動きを振戦といいます。実はここには写っていませんが、ベットでうつ伏せで寝ていただいているとアテトーゼという、もっと指がくねくねとうねるような動きをみせていました。また、姿勢写真の撮影で立っていただくと、小さい物を指でつまんで丸めるような動作(pill-rolling tremor)も見せていました。

本来、アテトーゼは安静にしていると出てこないで、動き出すと強調される運動障害ですが、この方の場合、これらの不随運度(意識してない運動)は全て安静時に出ていました。じっとしていると出てくるけれど、動き出せば消えてしまうので、日常生活にはなんら支障はないと言います。お仕事はPC作業ですが、まったく不都合はないそうで、今回も当院で指摘するまでご本人は気づきませんでした。

では、当院には何を求めてお出でになられていたのかというと、ご家族から猫背だからそれを治してもらえと言われてきたそうです。

 

安静時振戦

振戦やアテトーゼは運動調節障害の一種です。今回の例でプルプルと指が震えているのは、指を右に引っ張る筋肉と左に引っ張る筋肉の調節が上手くいかず、本来、両方から引っ張って丁度いい位置に指を留めておこうとするのを、片方側の筋肉が引っ張りすぎたので、反対側が引っ張って、再び行き過ぎたのでそれを引き戻そうとして…というのを繰り返している状態です。

ここで神経学にこだわり過ぎの施術者ですと、この安静時振戦を改善させることが全ての改善につながると思い込んでしまっているでしょう。運動の調節は大脳基底核、小脳、辺縁系などが関わっています。カイロプラクティックの考え方では、この運動回路の接続を変化させるために特殊な訓練をしてもらいます。具体的には眼球を動かしたり、音を聞かせたり、首を色々捻ったり、体の半分だけを使った運動したり…etc。

ですが、この方の主訴は猫背を治したいというもの。眼球動かしたからって背筋がピンってなったっていうのは見たことがない。姿勢改善をしたいなら、姿勢改善のための運動をしてもらった方が良いに決まっています。そのほうが確実性が高いし、エビデンス的に確立されている。

この場合の安静時振戦の改善が、姿勢改善に影響を及ぼす可能性もないことはないかもしれませんが、間接的な影響で直接的な問題を引き起こしている訳ではありません。実際、バランス・テストは問題なしです。

 

何から取り組むべき?

一般的に猫背の人が安静時振戦を皆引き起こしているならば、直接的な関係があると言えるので、それを改善する価値はあるでしょう。しかし、今回のケースは特異的です。まず第一選択として取り組むのは、直接、猫背の改善のための訓練です。それを行っても改善が見られないようならオプションとして安静時振戦にアプローチするのもありです。

私もカイロプラクティック神経学を学んでいた身であるので、このような場合、安静時振戦へのアプローチを第一義に行っていきたくなりますが、それはクライアント様の当初の目的とは違って気ます。姿勢改善ならそのためのアプローチから取り掛かります。

確実性の高いものから取り組むほうが、無駄な時間とお金をかけずにすむ可能性が高く、クライアント様のためになります。施術者のエゴをクライアント様に押し付けてはいけません。また、当初はクライアント様が望んでいたこととは違っていても、エビデンス的に正当性があることであれば、そのことをちゃんと説明して施術していくというのも必要です。その際は、施術者と受け手が共通のイメージ・認識を持つようにしないといけません。

 

まとめ

施術者にはマイ・ブームっていうのがあります。セミナーに参加して新たなことを学ぶとそれが自分の中でブームになって、誰それ構わず試したくなる現象です。

必要性があると感じられるなら別にかまわないですが、まったく関係ないのにこじつけてやるのもどうかな~と考えています。一般的に施術業界はこんな感じです。自警の意味も込めて今回記しました。

では、今回はこの辺で。

 

この記事が何か皆様のお役に立つことがあったならば、facebookで「いいね!」を押したり、twitterでつぶやいていただけると、本人のやる気につながりますのでお願いします。

 

 

Follow me!

お問い合わせはこちらです

    お名前 (必須)

    メールアドレス (必須)

    題名

    メッセージ本文

    メッセージの内容はこれでよろしいでしょうか?

    OKでしたらチェックして送信ボタンをクリックして下さい。