施術院における栄養療法の指導の限界
前回の施術院での診断行為に関する考察に引き続いての記事です。今回は栄養指導に関しての診断行為という題目です。
実は、今年の2月に分子栄養学の講義を受けてきました。特にカイロプラクティック神経学の一環としての栄養学なので、脳の伝達物質に関する栄養学です。そこで感じたことを踏まえて、さらに巷の現状も鑑みて感じたことを述べてみたいと思います。
分子栄養学との関わり
まず最初に、ざっと私と栄養学との関わりについて述べたいと思います。
最近、日本でもオーソモレキュラー(分子整合栄養学)療法なる栄養療法が話題になって、栄養療法自体が世間的に認識されるようになってきました。しかし、栄養療法自体は昔からありました。カイロプラクティックでも栄養療法を併用して施術しているところは世界中でいっぱいあります。
特に10年前ぐらいから日本では、欧米からこれらの新しい栄養法の情報が、メガビタミン療法やGFCF療法として紹介され出したと記憶しています。それと同時に当時は粗食や絶食ブームでもあり、ホメオパシーや西式甲田療法も話題にされていました。
私は全部の療法を把握している訳ではないので詳しいことは分かりませんが、印象としては西欧由来の栄養療法はビタミンや微量栄養素をどちらかというとドンドン摂取するという感じで、逆に東洋医学的な発想をしている絶食・粗食を主体とした療法はできるだけ摂取するものをドンドン削っていく方向性にあるように感じられました。
そんな状況のなかで栄養療法に興味を持ちましたが、その時知ったのがオーソモレキュラーというものでした。最初に知ったのはこちらの本
低血糖症と精神疾患治療の手引―心身を損なう血糖やホルモンの異常等の栄養医学的治療 (第5版)
私が読んだのは10年前に、初版のほうですが。この中で述べられていることは、血液検査がまずベースにあるということです。そこで施術院で行うにはいろいろ難しいな~と、ボンヤリと思った記憶があります。
そして今回再び分子栄養学の受講をして確信しました。施術院において実施するには色々障壁があると。
そのことについて次で述べます。
何が問題か?
分子栄養学をちゃんとやろうとすると血液検査をし、そこから必要を思われる栄養素を割り出し、処方するという流れになります。
一般的な健康診断での血液検査ですと20前後の項目を調べると思います。一方、オーソモレキュラーを標榜する医院での血液検査項目数は60くらいとされています。
そしてこの検査結果を解析し、栄養療法なので当然サプリメントを指導します。これはモロに医療による診断行為になります。当然、医師のみが行って良い行為です。
またこの診断結果を受け、当の医師や、またはその下についている栄養士が必要栄養素の処方がなされます。これは全て医師の管理化で行われます。
現在、オーソモレキュラーの一般向けにセミナーを行っている団体で大きな(有名な)のが2つほどあります(私の知る範囲では)。以下に参考のためリンクを張っておきます。以前はこれらのホームページには法令順守の記載がなかったような気がしますが、他から指摘を受けたのか、最近見たらカッチリ載ってました。
オーソモレキュラー栄養医学研究所(旧オーソモレキュラーjp.)
法令順守の部分を抜粋させていただきます。
医師・歯科医師以外の方が第三者の血液検査データを読み取り診断行為を行うことや、その方法を教授して医師以外による診断を助けることなどは、医師法第17条違反として、3年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金等に処せられます。
また医師であっても医師以外の方に血液検査データの読み取りを教え無資格者による診断等を助けることは、「医師法違反のほう助」に該当し得、医師であっても医師法違反となります。
このようにあります。
施術院における栄養指導の限界
上記の情報を踏まえ、実際に施術院や治療院で分子栄養医学的な指導を行おうとするとどのような障壁がでてくるでしょうか?
まず、施術院で分子栄養学に基づく栄養指導をしようとしても手元に血液検査のデータがないとちゃんとした指導ができない。
そして分子栄養学の血液検査のデータを取るためには一般の血液検査ではデータ不足となるので、一般の医院でなく分子栄養医学を標榜している医院で検査をしてもらう必要がある。
仮に施術院で血液検査のデータを元に栄養指導をしようとしても、検査で分子栄養医学を標榜している医院で診てもらっているので、わざわざ施術院で指導を受ける必要もなく、その医院でそのまま栄養指導を受ければすむことである。
法律的に血液検査を見てそれを判断し、栄養指導することは診断行為にあたり、施術院ではそもそもできない。そして医師サイドもその行為を促すことは法律で禁止されているのでできない。
さらに一般的な血液検査のデータを基に栄養指導をしたとしても、やっていることは診断行為そのものなので、同じように違法行為となる。
結局、栄養指導に関することは栄養療法を標榜している医師に丸投げして、施術院は自分らの職務範囲での業務をこなしていけば良いということになります。
施術院での栄養指導はどこまでできるか?
例えば暑い日に「水分不足になりやすいので、水分をとりましょう」というのは、日常会話の範疇で一般的に普通に交わされる言葉です。これは診断になりません。
一方、例えば血液検査の結果を見て「GPT、GPTの数値が低いからビタミンB不足なので、ビタミン剤を1日○○くらい飲みなさい」などと言えば診断及び処方をしたのと同じなので医師法に抵触する可能性がでてきます。
栄養に関していうなら、一般論としての栄養の効用を説明する分には問題ないと思われますが、個人の情報に基づく個別指導をしてしまうといけない、と考えられます。
上記の例で言えばGPT、GPTは肝機能を表す数値ですが、これらは前日の食事や喫煙、運動などのタイミングで変動することが知られています。ダイエットなどの貧弱な栄養状態でも低くでます。まずは生活習慣や環境などのヒアリングを行い、問題あるような生活状況ならそれを改善していくようなアドバイスを一般常識の範囲で説明・指導していく方が先決ではないかと思われます。
従って施術院・治療院でできる栄養指導とは、検査数値を元に個別指導のようなものを含めない、一般論としての栄養の効用の説明をするという範囲のものではないかと考えられます。少なくとも当院での栄養指導はこのような基準に基づいて行っています。
まとめ
営業利益のかさ上げのために、施術院や治療院では物販は推奨されていました。サプリメント販売もその一環としてよく取り入れられています。その流れから最近では分子栄養学と絡めて販売促進されることがあります。
前回の診断行為の有無の記事に引き続き、今回は栄養指導での施術院における職域について考えてみました。
施術院の利用者様におかれましても、施術者の職域を逸脱させるようなサービスを要求をしないことが、ご自身にふりかかる不利益から身を守ることにつながると思います(例えば、体に合わないサプリを取り続け体調を崩すなど)。
今回は、栄養指導に関する注意喚起の記事を掲載させていただきました。この記事が何か皆様のお役に立つことがあったならば、facebookで「いいね!」を押したり、twitterでつぶやいていただけると、本人のやる気につながりますのでお願いします。。。