下肢のプライオメトリックス・トレーニングを実施するのに必要な筋力の基準値について
プライオメトリックスとは
体の機能を向上させるためには、「特異性」が必要とされます。例えば、素早い動きが求めらるスポーツを行っているのに、ゆっくりとした動作のトレーニングばかり行っていると、そのスポーツの運動能力は向上しません。目的に合わせてトレーニング内容をアジャストしていかなければなりません。
プライオメトリックス・トレーニングは瞬発的、爆発的な動きを獲得するためのトレーニングです。
この運動のメカニズムとしては、ストレッチ・ショートニング・サイクル(SCC)という機構が働きます。これは、「ゴムを伸ばして、引っ張った力を離すと縮まる」という現象と同じようなものと解釈されます。SCCの機序としては以下の通りです。
①筋肉に強く速く力がかかり、筋は抵抗力を発揮しながらも伸ばされる
②筋が伸ばされたことに伸張反射が起こり縮もうとする
②腱の弾性エネルギーも加わり、爆発的な筋出力を達成する
プライオメトリックの代表的なトレーニングとしては、
・ボックスジャンプ
台の上から飛び降り、着地の瞬間に台上に飛び乗る。
・タック・ジャンプ
地面からジャンプし、空中で両足抱え込んで、着地したら間髪入れづに再びジャンプ、の繰り返し。
・シングル・レッグ・ジャンプ
片脚けんけん。出来るだけ高く、遠くにジャンプすること。
などです。上半身のプライオメトリックス・トレーニングもあります。
トレーニングを実施してよい体力的な基準
ジャンプ系のトレーニングでは床からの衝撃で体に負担がかかります。足首、膝、腰、股関節に負担がかかるため、それらに障害がある場合、推奨されていません。また、体を支える筋力が足りない場合も怪我に繋がるとされ、強度が高めのプライオメトリックス・トレーニングはお勧めできません。
現在、プライオメトリックス・トレーニングを安全に行うための体力的な基準として提唱されているものが、下の文献に掲載されています。
NSCA機関紙1998年volume5,number9号「プライオメトリックス:安全かつ効果的なトレーニングに発展するための考察」 |
Int J Sports Phys Ther. 2015 Nov; 10(6): 760–786.「CURRENT CONCEPTS OF PLYOMETRIC EXERCISE」 |
抜粋すると以下の通りです。今回は全て下肢トレーニングに関してのものです。
①バーベル・スクワットの1RMで体重の1.5~2倍以上は持てる事。
②または、体重の60%のスクワットを5秒以内に5回出来る事。
③目を開けた状態と、閉じた状態で片脚立が30秒出来る事。
①のバーベル・スクワットの1RMというのは最大筋力のことで、ギリギリ1回持ち上げることが出来る重さという事です。例えば体重60㎏の人ですと、90㎏以上の重量でパラレル・スクワットが出来ることを意味しています。
フリーウェイト・トレーニングを行い慣れていない人が、最大重量を急に持とうとすると危険なので、現実的には自体重のウェイトでのパラレルスクワットを12回以上(70%RM)持ち上げるというを基準とし、それが出来るようであれば合格とします。
また、②の例では、体重60㎏の人であれば36㎏のウェイトのパラレルスクワットで、5秒間に5回出来ることで合格となります。①と比べ、こちらの方が簡単かも知れません。
③はバランス能力に関する基準です。ジャンプトレーニングはバランス保持の能力も必要です。
①or②と、③が合格ラインに到達してからプライオメトリック・トレーニングに取り組むようにすると、ケガの発生リスクが抑えられると考えられます。もし、この基準に達していないようでしたら、先ずは基準を達成するための運動能力強化から取り掛かった方が無難です。
この基準に達する前にプライオメトリックス・トレーニングを実施しなければいけない場合は、強度を見合うだけの低さに下げる必要があります。
下肢プライオメトリックス・トレーニングの強度について
トレーニングには「漸進性」という原則があり、簡単なものから難しいものへ順を追って難度を上げていく必要があります。プライオメトリックス・トレーニングを行う場合も同様です。
プライオメトリックス・トレーニングにおける漸進性によるメニュー作りは、NSCAからガイドラインが公開されていますので、そちらをご覧ください(ここでは下肢によるプログラムです)。
NSCA機関紙volume17,number10「プライオメトリックスの強度に関する実践的ガイドライン」 |
まとめ
プライオメトリックス・トレーニングはスポーツの技能向上に効果的なトレーニングです。瞬発力向上の他に、神経の働きを促し、意識して行えば不良動作からくる怪我の予防にもつながるとされています。
しかし、体にかかる負荷も高いので、前提として基礎的体力があることが推奨されています。
一般的にはプライオメトリックス・トレーニングの導入の体力的な基準があまり明確にされていないようなので、今回はそのご紹介をしました。この記事が何かのお役に立てば幸いです。
では、今回はこの辺で。
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