以前の記事で、当院のエコーの活用法の一つとして体幹深部筋のトレーニングに活用する方法をご紹介しました。

こちらです。

 

今回はその中でも腹直筋離開に対する改善運動を題材にその具体的な方法をご紹介します。

腹直筋離開に対する治療法は、現在、外科的手術以外は漠然とした腹部の運動療法しか提案されていません。その成功率を上げるため、当院ではエコー(超音波画像装置)を使用しています。そこでこの記事では、エコーの有用性の研究や、実際どのように活用しているかのご紹介していきます。

ただ、このトピックスに関する記事を作成していたら、やたらと文が長くなってしまいましたので、今回を含め4回に分けて掲載していくことにしました。まずは第1弾です。

 

 

体幹腹部の筋肉のおさらい

腹部の筋肉は4層構造になっています。

一番深部にあるのが腹横筋。腹巻のように胴体まわりを取り囲んでいて、この筋の収縮が骨盤や背骨の剛性を増し、体幹の安定性を生むのに重要とされています。

 

その次に外側にあるのが内腹斜筋と外腹斜筋で、互いに筋線維の走行がクロスするように存在しこれらの筋も体幹の安定性を生むのと同時に、身体を捻る動作の原動力にもなります。

 


(c)フリーメディカルイラスト図鑑

 

一番外側にあるのが腹直筋で、ミゾオチあたりの胸骨・肋骨から恥骨まで縦方向に身体の正中部分を走っていて、おなかを前に曲げる働きがあります。真ん中に白線という結合組織があり、そこで左右からの腹部の筋肉は連結されています。

腹直筋離開とはその連結部である白線が、妊娠中のおなかの発達により引き伸ばされ、結合組織が薄くなってしまったり、部分断裂した状態のことを指します。

 

 

エコー観察による腹直筋離開の評価の妥当性について

エコー観察を用いて腹直筋の離開の幅を観察することができます。通常、一般的には腹直筋離開の幅を測定するには、左右の腹直筋の間にできた溝の幅をメジャーや、指の幅を物指しにして計測します。

その方法でも計測はできますが、腹筋群が弱かった時は腹部筋の緊張をさせると溝が明確化していたのが、ある程度腹部強化の訓練が進むと、腹直筋間の溝が平坦化してきて分かりずらくなる事があります。そのような時に本当に離開幅が縮小しているのか、見かけ上の幅が減少しているのかを判断するのにエコーを使うと確実性が増します。

靭帯や腱のような結合組織は、一度伸びると(部分断裂し、瘢痕組織化した状態)そのままでは元に戻ることはありません。ギブスのように完全に固定し、まったく動かないようにすれば拘縮(固まって動かなくなること)するようになりますが、胴体のように日常生活で絶対動いてしまう部分では、それは現実的でありません。

したがって、見かけ上でも離開幅の減少が起きていれば、それが矯正の目標達成になるのですが、見かけ上の離開幅が目立たなくなっても、実際の離開が広がっているということが起こるとも限らないのです(今まで見たことはないですが…)。そのような評価は、以後の腹部トレーニングのやり方や、強度設定などを決めるのに重要な情報になります。

そこで、実際にエコーでの計測は信頼おけるものであるのか、を調べた研究があるのでここでご紹介をします。2015年発表のカナダ、オンタリオ州のクイーンズ大学の論文です。

 

【分娩直後の女性の超音波イメージング:セッション間信頼性の内的要因。】

Ultrasound Imaging in Postpartum Women With Diastasis Recti: Intrarater Between-Session Reliability.

著者;Keshwani N, McLean L.

出典;J Orthop Sports Phys Ther. 2015 Sep;45(9):713-8. doi: 10.2519/jospt.2015.5879. Epub 2015 Jul 10.

【概要】

《目的》
分娩直後の女性の腹直筋離開に関する、超音波イメージングを用いた腹直筋間の距離(IRD)の測定のセッション間信頼度を調べること。

《バックグラウンド》
腹直筋の縫合離開とは、腹直筋の白線における分離である。妊娠の結果として起こり、腹直筋間の距離(IRD)の増加を特徴とする。腹直筋間の距離を計測することは、腹直筋離開の重症度や治療の効果の経過変化を判定するのに重要な指標になる。超音波イメージングは腹直筋離開の女性の離開幅を測定するための有用なツールとして提案されている。しかし、この集団における超音波イメージングを用いたIRD測定の一貫性は、我々の知る限り決して調査されていない

《方法》
超音波イメージングを使用し、腹直筋離開を有する20人の女性のIRDを測定した。各計測時に、参加者がリラックスしている状態と、頭部の持ち上げを行って腹部筋肉を活動化させている状態時の2ポジションで、白線に沿って4カ所で画像測定を行った。信頼性の統計には、クラス内相関係数、Bland-Altman分析、臨床的に重要な差異の最小値、および測定標準誤差で分析した。

《結果》
腹直筋間の幅の計測のセッション間の信頼性の比較は高かった。特にへその上の離開幅の計測時はクラス内相関係数が0.90より大きい値を示し、測定標準誤差が少なく、臨床的に重要な差異の最小値を示した(0.17cmおよび0.46cmより小さい)。へそより下のポイントの測定値は、信頼係数が低かった。

《結論》
経験豊富な使用者によるエコー計測は、腹直筋離開を有する産後の女性の離開幅を測定するための信頼できるツールである

ここでは特に上腹部の計測は信頼性が高く、下腹部は信頼性が低いということが述べられているようです。当院においては実際にはメジャーや指による実測がメインで、エコー画像での数値確認は補助手段となる場合が多いです。また、当院の場合はエコーの観察場所は白線上の離開幅だけでなく、メインは腹部筋の活動度合いを見ることです。次に当院での具体的な活用例をご紹介したいと思います。

 

 

 

実際の症例

当院での腹直筋離開時のエコー観察ポイントは、左右の中腹部の外腹斜・内腹斜・腹横筋それぞれの収縮具合と、へそ上のとヘソ下の離開具合を安静時と腹筋収縮時の比較を行います。また、下腹部の内腹斜・腹横筋の収縮具合も観察します。

今回のモデルケースでは、A様30代女性の場合をご紹介させていただきます。

 

離開部の突出の経過観察

このクライアント様の腹直筋離開は、初診時では下の動画のように腹圧を強く高めると離開部に沿って腹部が隆起しているのが観察できます。具体的にどのような動作をしたかというと、膝を伸ばしたまま両足を30~40°位の角度にあげてもらうのです。こうすると腹部の圧力が強く高まります。

 

その後、月1ペースでのご来院で施術と腹部訓練を指導させていただき、3ヶ月後が次の動画です。上記と同じ動作を行ってもらい、腹圧を強く高めた場合の腹部の隆起具合を観察しています。動画のように腹部に圧力をかけても離開部の隆起は小さくなってきました。また、動画の最初の方で指による離開幅を測定するために、指を差し入れようとしていますが、陥没具合が不明瞭になってきたため分かりづらくなってきています。

 

 

運動機能の向上は、体力的にゆとりができるため、日常でも腹部の支えが出来てくることが予想されます。当院での腹直筋離開に対する運動指導もその点を狙ってご指導させていただいています。

ただしこの時点で、表面上はしっかり腹筋群は収縮できているようでも、実際内部の筋は機能的に正しく働いているかは確実にわからないのです。筋肉はそれぞれ役割があり、働くタイミングがあります。筋肉の機能の乱れとは、そのような役割が果たせないような状態になっていることをいいます。

触診によりそのような筋機能の評価をしようと努力をするのですが、深部の筋は表面の筋に覆いかぶせられているので、実際の動きが隠されています。その際、評価の確実性を高めるのに登場するのがエコーなのです。

 

腹部深部筋の観察

このクライアント様は一見すると、体表からの評価では腹部の筋の収縮は正しく行えているようでした。しかし実際に深部筋をエコーで観察してみると、腹部の引き込み動作では上~中腹部で内腹斜筋のみが強く収縮し、腹横筋の収縮がほとんどなされていないのが分かります。

ここでは、引き込み動作により腹横筋という深層筋を優位に働かせる練習をしている最中の画像なので、下図のようなパターンは不良動作となります。次回以降に、腹部の正しい筋収縮のメカニズムについてご紹介していく予定ですので、詳しい内容は今回割愛させていただきますが、腹横筋の先行収縮ができることには意味があります。

 

 

下腹部では腹横筋の収縮が達成できているのが確認できます。腹筋も場所により神経支配が違うので、このような使える所と使えないところが出てきても不思議ではありません。

 

ただしこの時点では、腹直筋離開があるため腹部深部筋が正しく働かないのか、腹部深部筋が正しく働かないため腹直筋離開が治りづらいのかは定かではありません。また、次回以降で詳しくご紹介していく予定ですが、腹部の強い引き込み動作も腹直筋の離開幅を広げる要因になる可能性があります。

腹横筋の先行収縮能力と、単独で収縮できる能力はある程度関係があることが分かっているため、体幹機能の安定のためには腹横筋の分離収縮の訓練をしていただく必要があります。しかし、その運動感覚が分からない場合は口での指導ではなかなか達成できません。そこで実際エコーでご自身の筋肉の動く様子を確認しながら、筋肉の動く感覚のフィードバックと一致させることにより、自身でも自由に筋が収縮できるように導きます。

 

同じ症状でも、同じようなエクササイズをするにしても、実は一人ひとりやることは違います。

例えば薬の処方では、どのような薬の組み合わせが効くのかとか、分量は適切なのか、効き具合は適切なのか、副作用はでていないか、などを考えないといけません。これは運動の処方をするときも同じなのです。その運動の効果、分量、弊害などを経過を観察しながら変えていく必要があります。

そのような修正を考えるときの一つの物差しとしてエコーは有効なツールであると考え、当院では使用しています。

 

まとめ

今回は、エコーを使って腹直筋離開に対する運動のアプローチ法の当院のやり方、考え方を述べさせていただきました。次回は今回の内容をさらに突っ込んで、そもそも腹直筋離開に運動って効果あるの?という部分を考えていきたいと思います。

では、今回はこの辺で。

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