腹直筋離開に関するシリーズ記事の4回目で、最後になりました。今回は腹直筋離開に対して手術をすべきかどうか、という観点からご紹介していきます。

 

 

腹直筋離開に対する外科手術はすべきか?

重症度が増した腹直筋離開に関しては、合理的に考えて保存療法で離開の幅を修復することは可能性が低く、現実的でないかもしれません。腹直筋離開で最も遭遇する訴えは①美容面、②腰痛、③尿漏れ、がトップ3になります。

腹直筋離開は体幹部の支持機能が弱くなるため、腰に負担がかかり腰痛を引き起こしたり、骨盤底筋が弱くなり尿漏れに発展するリスクが高くなります。腹直筋間の幅が縮小するかどうかは置いておいて、腹部のトレーニングを実施することは例え腹直筋が離開していても体幹筋強化に繋がるので、先に挙げた腰痛や尿漏れの改善に繋がるし、そのことは複数の研究報告で発表されています。

したがって、これらの主訴の改善を目指すのであれば保存療法をまず選択することをお勧めします。しかし、美容面を最重要課題にしている場合は、腹直筋離開は完全に元に戻るのは難しいと考えています。「何年もがんばって努力してみても、離開の幅がこれっぽっちしか減ってないの?」なんてことになる可能性もあるので(当然、重症度によりますが)、そのような場合に陥りたくなければ最初から手術を受けてしまうのも選択肢としてはあります。

 

腹直筋離開の外見上の修復は、妊娠前のような完全な状態には戻らないと考えられる理由

通常、結合組織内で起きた微細損傷は、破壊された部分の組織が瘢痕組織に置き換わって治癒されます。妊娠中はリラキシン・ホルモンにより組織の結合が緩みやすいとはいえ、腹直筋の白線もコラーゲン線維による結合組織なので、妊娠中に拡張する腹部に伴い引き伸ばされ、微細損傷を起こした組織は瘢痕化していると推定できます。

瘢痕組織は形成されてからも1年ぐらいの間は線維組織の再構築(リモデリング)がなされるので、その間に適切な刺激を組織に与えていると、瘢痕組織内の線維も適切な方向に線維が構成されていきます。その期間を過ぎると瘢痕組織は多少萎縮し、修復は終了となります。

腹直筋の白線が引き伸ばされ薄くなった状態で放置されていると、上記のような経過を辿り組織は伸びた状態で修復は終了してしまい、いわゆる「伸びた靭帯は戻らない」という状態になるのです。また、組織が修復用の組織に置き変わっているので、完全に元のようには戻らないと思われます。

 

腹直筋離開の美容面で起こる問題と勘違いされること

腹直筋離開で引き起こされる美容面での問題で、一番多く訴えられることは、「腹直筋の間がくぼんだ」とか「お腹をいきむとはコブが出てくる」とかではありません。「お腹がリラックスしてる時や食事をした時に妊娠している時みたいに出てくる」や「出べそをなんとかしたい」というのが大半です。

しかし、産後に下腹部が出てくるっていうのは、実は別段、腹直筋離開の人でなくても産後よくある訴えで、単に脂肪がついてお腹が出てきている場合もあるので区別が必要です。というのは、女性は男性に比べ下腹部や太もも内側は脂肪組織が蓄えやすい構造になっているので太りやすいとうのがあります。子宮などの骨盤内臓を保護するためのしくみで、その様になっているのですね。

また、妊娠中にお腹が大きくなるにつれ腹部の筋や皮膚は伸ばされています。産後は単純に、その伸ばされた組織がたるみ易くなっているというのがあります。これも腹直筋の離開がなくても起きることです。これらの改善のための第一選択肢は、ダイエット、運動療法、姿勢矯正などとなり、外科的手術ではありません。

産後に上記のような「腹部のたるみや突出」が気になる場合、本当にそれが腹直筋離開から引き起こされているか調べてみる必要があります。

 

手術に踏み切るための一つの指標

体幹機能という面から手術が適応となる指標の一つは、腹膜を緊張させ体幹部を安定させることができれば、腰部安定や骨盤底機能の安定が達成できるので、保存療法が第一選択となります。腹直筋離開により腹膜に十分な緊張を生むことができなければ、体幹の安定化を達成できないため保存療法の効果が見込めないことになり、このような場合は手術の適応になると考えられます。

美容面に関しては当院では詳しいことは分からないので、外科医に直接ご相談されることをお勧めいたします。参考資料として2つ文献が見つかりましたので、次にご紹介します。

 

 

【腹直筋離開の修正に対する結果のシステマティック・レビュー】

A systematic review on the outcomes of correction of diastasis of the recti.

著者;Hickey F, Finch JG, Khanna A.

出典;Hernia. 2011 Dec;15(6):607-14. doi: 10.1007/s10029-011-0839-4. Epub 2011 Jun 18.

【概要】

《目的》
腹直筋の分裂または離開は、通常、腹直筋白線の壁厚減少および伸張の結果として、腹直筋の分離が起こると説明される。このレビューでは、離開した腹直筋を修復すべきかどうかを検討し、外科的修正に伴う固有の合併症が、得られた利益を上回るかどうかを立証しようとしている。

《方法》
EMBASE、MEDLINEおよびCochraneライブラリーを以下の語句で検索した(「divaricationまたはdiastasis」)と(「rectiまたはrectus」)。各テキストからデータを抽出するために、標準データ抽出フォームを使用した。無作為化対照試験の欠如のため、メタアナリシスは不可能であった。

《結果》
7本の研究報告では、手術後に患者の満足度が高いことが報告されている。最も一般的な合併症は、漿液腫の発生であった。他の一般的な合併症には、血腫、軽度の皮膚壊死、創傷感染、縫合不全、術後疼痛、神経損傷および再発が含まれ、その割合は40%もの高い可能性がある。

《結論》
腹腔鏡および開腹腹腔形成術を比較するためにはさらなる研究が必要である。患者と医師には以下のことを忠告しておきたい。腹直筋離開の修復手術は主に美容的問題であり、離開は見栄えは悪いかもいしれないが、実際のヘルニアと同じリスクはないのである。技術の進歩は、外科的死亡率を伴わずにリスクを減少させた。しかし、手術の転帰としては、見苦しい瘢痕、局所敗血症および再発などを起こす可能性があり、不完全であると思われる。

 

イングランドのノーサンプトン総合病院外科医局2011年発表の報告です。様々なオンライン・データベースで腹直筋離開に対する外科手術の利益とリスクの割合を調べてみたという内容です。この頃の外科手術後の合併症は、4割近く発生している(重症度は別として)のであんまりお勧めしない、みたいなニュアンスで報告されていますね。

 

 

【腹直筋離開に対する一般的な外科医の視点。治療オプションの体系的なレビュー。】

The general surgeon’s perspective of rectus diastasis. A systematic review of treatment options.

著者;Mommers EHH, Ponten JEH, Al Omar AK, de Vries Reilingh TS, Bouvy ND, Nienhuijs SW.

出典;Surg Endosc. 2017 Dec;31(12):4934-4949. doi: 10.1007/s00464-017-5607-9. Epub 2017 Jun 8.

【概要】

《バックグラウンド》
腹直筋離開(DRAM)は腹筋群の弛緩と併せて、腹部白線の菲薄化および広がりを特徴とする。これにより、腹腔内圧が増加すると正中線が「隆起」する。一般的な外科的治療と理学療法の有効性はまだ分かっていないが、DRAMの外科的治療は完全に評価されている。この体系的な文献レビューの目的は、術後合併症、患者満足度、および再発率に関してDRAMを回復させるための一般的外科的治療法と理学療法の両方を評価することである。

《方法》
MEDLINE、EMBASE、PubMed、Central、The cochrane central registry of controlled trials (CENTRAL)、Googleニュース、および理学療法エビデンスデータベース(PEDro)で以下の用語を用いて検索した。「rectus diastasis」「diastasis recti」「midline」「abdominal wall」。DRAMの一般的な外科的治療または理学療法的治療に関するすべての臨床研究は、対象として含まれた。

《結果》
1.691人の患者(1.591人の手術/ 100人の理学療法)を記述する20の記事が含まれていた。外科的介入はプリケーション・テクニックにより分類され(313人の患者中、254人の開腹/59人の腹腔鏡下)、ヘルニア修復の改変技法(68人の患者、全員開腹手術)、およびヘルニアとDRAMの併用手術(1.210人の患者、1.149人開腹/ 40人混合)。全体的な方法論の質は低かった。短縮縫合およびメッシュ補強を用いた縫合技術が、DRAM修復のために最も頻繁に適用された。開腹的な修復手術が患者の85%で行われた。術後合併症や腹腔鏡または開腹手術後の再発率、または短縮縫合術と修正ヘルニア修復技術の間に差はなかった。理学療法プログラムは、リラックスした状態でIRDを減らすことができなかった。筋肉収縮時のIRDの減少については報告されている。

《結論》
縫合ベースの方法とヘルニア修復方法の両方ともDRAM修復に使用されている。現在の文献に基づいて、再発率、術後合併症、または患者が報告した転帰の明確な区別はできない。完璧に分かれてしまった腹直筋離開でリラックス状態での計測では、理学療法のトレーニングプログラムに関しては、現存する文献では記述がない。理学療法は、筋肉収縮の間にIRDの一定の減少を達成することができるが、患者の満足感、美容的、機能的成果に対し、この結果がどの程度のインパクトを残せるかは不明である。

こちらの報告は2017年Surgical Endoscopy(内視鏡外科手術の専門誌)に掲載したものです。こちらは保存療法にかんしては悲観的な感じですね。

先の報告は2011年のものなので、こちらの2017年の報告の時点ではさらに手術手法も変わってきているかも知れません。合併症の発生率や重症度なども考慮して、手術を選択する場合はリスクとベネフィット(利益)を考えてみると良いでしょう。

 

まとめ

現時点では腹直筋離開に対する手術、保存療法いづれも成果が研究によって色々出ていて、一概にどっちが良い・どっちが悪いとは言えない状況のようです。したがって、こちらで出来ることは今出ている情報を提示して、判断は皆様ご自身でしていただくということしかないです。そのため今回はその判断材料を羅列したという形になりました。

また、当院では知り合いに外科医がいるわけではなく専門でもないため、手術に対するお問い合わせや、医師の紹介等はできませんので、ご遠慮いただくようお願い申し上げます。

では、今回はこの辺で。

 

 

この記事が何か皆様のお役に立つことがあったならば、facebookで「いいね!」を押したり、twitterでつぶやいていただけると、本人のやる気につながりますのでお願いします。