妊娠中の骨盤の痛みとリラキシンとカイロプラクティックについて

 

妊娠中に放出されるホルモンで、じん帯を緩くするといわれる「リラキシン」。その効果のために骨盤や腰に痛みがでるというのは本当なのか?

リラキシンはじん帯を緩くすると私は教わりました。教科書にもそのように書いてあります。関節が緩むので、妊娠中は痛みが出やすいというのが一般的に説明されています。しかし、実際はそれは本当なのか疑問に思ったので調べてみました。また、カイロプラクティックが妊娠中の痛みに有効かどうかを調べた論文も見つけたので、合わせてご紹介します。

 

 

 

 

【妊娠中の血清中リラキシン・レベルと自動下肢挙上テストとの関連について】

Association between the serum levels of relaxin and responses to the active straight leg raise test in pregnancy.

著者;Vøllestad NK, Torjesen PA, Robinson HS.

Man Ther. 2012 Jun;17(3):225-30. doi: 10.1016/j.math.2012.01.003. Epub 2012 Jan 30.

【概要】

リラキシンホルモンには妊娠中の骨盤関節が弛緩しやすい効果があり、そのため骨盤痛(PGP)を誘発すると一般的に考えられている。そこでリラキシンレベルがPGPの症状および臨床試験に関連するかどうかを調べてみた。

妊婦212人(妊娠5-24週)から質問票、臨床検査および血液サンプルを採取。リラキシンの濃度を決定するために、血液サンプルからの血清をELISAによって分析した。症状は自己報告で、障害評価指数(DRI)疼痛強度(VAS)によって評価。臨床検査は自動下肢挙上(ASLR)検査および疼痛誘発試験を実施。ANOVAを用いて、リラキシンレベルと臨床試験に対する症状または応答との間の関連性を調べるために、妊娠年齢および多変量統計の影響を評価した。

リラキシンの血清レベルは、個体間で大きく異なり、妊娠年齢よる影響は僅かだった。妊娠年齢と臨床試験への反応または疼痛強度との間には関連性はなかったが、妊娠年齢とともにDRIが増加した。リラキシンの血清濃度は、ASLR試験で陽性スコアと有意な関連を示したが、疼痛誘発試験、疼痛強度またはDRIに対する反応と有意な関連はなかった。

結果は、リラキシンが妊娠中の骨盤の関節の弛緩に寄与していることを示している。しかし、症状や知覚障害に影響を与えるリラキシンの証拠は見つかっていない。

2012年のノルウェーのオスロ大学保健社会科学研究所保健科学科が発表した論文です。

リラキシン濃度が上がるにつれ自動下肢挙上テストは上げずらくなったが、痛みの強度や障害の自覚度合いに関しては関連性は見いだせなかったということです。リラキシンは動物実験や組織学的な試験では、組織を弛緩させる働きがあることは分かっているので、自動下肢挙上(ASLR)テストが骨盤関節の弛緩性を計る物差しになるという根拠をこの論文は示しています。コレは当院でも導入しています。

 

【妊娠中の骨盤痛と妊娠中のリラキシンレベルとの関係:系統的レビュー】

Pregnancy-related pelvic girdle pain and its relationship with relaxin levels during pregnancy: a systematic review.

著者;Aldabe D, Ribeiro DC, Milosavljevic S, Dawn Bussey M.

Eur Spine J. 2012 Sep;21(9):1769-76. Epub 2012 Feb 4.

【概要】

妊娠中のリラキシンレベルと妊娠関連骨盤痛(PPGP)との関連について、現在の証拠のレベルを体系的レビューで評価を行った。731の参考文献中、6つの記事が基準を満たし、この体系的レビューの対象となった。その内5件の研究が症例対照であり、1件の研究が前向きコホート研究であった。4つの研究は高いと評価され、2つは低品質と評価された。高品質の研究のうち、3つはPPGPとリラキシンレベルとの間に関連性がないことを見出した。

これらの知見に基づいて、PPGPとリラキシンレベルとの関連についての証拠のレベルは低いことが判明した。PPGP評価とリスク因子のコントロールは、これらの知見の解釈と将来の研究の必要性に於いて、不確実なままのバイアスが増大していると判明した。

ニュージーランド・ダニーデンのオタゴ大学体育学部の2012発表の論文です。ここでもリラキシン濃度と骨盤の痛みとの関連性あるといいきれる程の証拠は見つかって無いと言っています。

これら2つの論文から言えることは、どうもリラキシンにより靱帯が緩むからそれが直接、妊娠時の骨盤周りの痛みを引き起こすのでは無いということです。本来リラキシン濃度と骨盤痛が関連があれば、正比例の関係を示さなければいけません。今回それは見いだせませんでした。

個人的な推測ですが、靱帯が緩んだことにより、それを支える筋肉によけいな負荷がかかり、筋肉自体が炎症を起こしているようです。ということは筋肉に負担をかけるような日常的な動作や、作業、生活習慣が問題ではないかと考えられます。

もう一つ考えられることは、妊娠中は妊娠期が進むにつれお腹が大きく重くなります。その重量が絶えす靱帯にかかるので、機械的に引っ張られる力が断続的にかかっています。そのため痛みが発生している可能性があります。

いづれにしろ、単純にリラキシン濃度が増すから関節が緩んで骨盤周辺に痛みが出るとうモデルではないようです。たぶん、妊娠前から潜在的に骨盤痛や腰痛を引き起こす要因をもっていたのではないかと推測できます。そこで、妊娠前からカイロプラクティックを受けることによりその潜在要因を取り除くことは、その後続く妊娠期での不具合を予防する意味から言って重要ではないか、ということに繋がるのです。ということで、ここでカイロプラクティックの宣伝が入るのです(笑)

次いでにもう1本、妊娠期におけるカイロプラクティックの有効性を示した論文をご紹介します。

 

【妊娠関連腰痛の治療のための運動、脊椎マニピュレーション、および神経感情テクニックの有効性を比較した予備的ランダム化比較試験】

A pilot randomized controlled trial comparing the efficacy of exercise, spinal manipulation, and neuro emotional technique for the treatment of pregnancy-related low back pain.

著者;Peterson CD, Haas M, Gregory WT.

Chiropr Man Therap. 2012 Jun 13;20(1):18. doi: 10.1186/2045-709X-20-18.

【概要】

予備的ランダム化比較試験において、本格的な研究の実施可能性を評価し、妊娠関連腰痛の治療のための運動、脊椎マニピュレーション、および心身療法(神経感情テクニック/NET)の効果を比較した。

以前から腰痛を発症していない健康な妊婦は、妊娠中のどの時点でも研究に登録でき、産後まで続けてもらった。3つの治療群のうちの1つにランダムに割り当て、出生前ケアスケジュールと平行し、治療の個別介入を受けたてもらった。私たちの簡単な仮説は、脊髄操作とNETが機能強化と痛みの軽減に関して、運動と同様なパフォーマンスを見せるであろうということであった。主な結果の指標は、Roland Morris Disability Questionnaireであり、2次的結果の指標はNumeric Pain Rating Scale(数値疼痛評価尺度)を使用。回帰分析とレスポンダー分析を実施し、グループ間を比較した。

運動(22人)、脊椎マニピュレーション(15人)、および神経感情テクニック(20人)、計57名の参加者を無作為に割り付けた。各治療群の参加者の少なくとも50%は、Roland Morris Disability Questionnaireの臨床的に有意な改善を経験した。運度および脊柱マニピュレーションの参加者の少なくとも50%も、数値疼痛評価尺度について臨床的に有意な改善を経験した。いずれの分析においても、群間に臨床的に有意な、または統計的に有意な差はなかった。

脊髄の操作と運動は、機能改善と痛みの軽減のために神経感情テクニック(NET)よりもやや良い結果を示したが、グループ間の差異を統計的に有意なものとして検出することはできなかった。

マニピュレーションとは「操作」のことですが、手技療法では矯正を目的とした手技操作のことを意味します。妊娠時の腰痛に関し、運動療法と脊椎マニピュレーション(矯正)とNETをそれぞれの効果を比較してみたが、改善率は50%くらいで、それぞれの差はあまりなかったが、運動療法と脊椎マニピュレーションがやや良かったという結果だったということです。

Neuro Emotional Technique(神経感情テクニック)とは、カイロプラクティック・テクニックの一流派で、経絡(ツボ)を使ってトラウマを探り出し、アクチベーターという器具で矯正するもののようです。私は教わったことは無いので深くは分かりませんが、運動と脊柱マニピュレーションは当院でメインで行っている施術なので、そこはこの論文の研究対象に当てはまります。

それぞれが改善率50%くらいなら、それを組み合わせればより改善率が上がるであろうということは想像に難しくありません。実際、当院でもこの組み合わせが効果的であるという実感を得ています。

 

考察

リラキシンが骨盤痛の直接の原因となる場合、妊娠中の骨盤痛は治らないということを意味します。なぜならリラキシンの分泌を止めることができないからです。ですがリラキシンは骨盤痛の間接的な要因にはなりますが、直接的な要因ではないようです。妊娠時の骨盤痛には他にも様々な要因が絡んでいると思われます。

したがって、他の要因を改善し、骨盤の負担を軽減すれば骨盤痛の改善に寄与できると考えられます。そこにカイロプラクティックが貢献できる領域があるのです。

カイロプラクティックの中でもNETはエネルギー療法の一種に区分され、気功や鍼でターゲットにされる、いわゆる科学的に証明されていない「気」や「生命エネルギー」といったものを対象としています。一方、当院でメインで行っているものは関節力学的なもの、生物工学的なものを扱うマニピュレーションと運動なので、科学的情報を基盤に行っているので一定の成果が出やすくなっています。その点で安心して、皆様にご提供できる手技だとおもいます。

 

まとめ

妊娠中に起こるマイナートラブルの一つとして骨盤痛があり、それとリラキシンとの関係の有無の本当のところを探ってみました。一般に言われている情報が違うということが解れば、またそのことに対して違ったアプローチも考えられます。リラキシンでじん帯が緩んでいるんだから、矯正してもまた緩んで無駄だよねという発想ではなく、他のアプローチから取り組んでみたらもっといい結果が出るかも、という考えができます。このような観点から科学的基盤の情報は大事だなと考えています。

今回はこの辺で。

 

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