産後に尿失禁を患う人は多いにも関わらず、育児の忙しさにかまけてケアを怠る人が多いです。産後の尿失禁予防および改善には骨盤底筋がトレーニング有効です。今回の記事では、産後の尿失禁に対する骨盤底運動の有効性と、それを教わる際のポイントの解説しています。

「産後」と題をうっていますが、更年期からの尿漏れ、老齢による尿漏れも全て行うことは同じです。

 

 

 

骨盤底筋トレーニングの要点

骨盤底筋のトレーニングには、テレビや雑誌など様々なメディア等で紹介され、皆様もすでにご存知の方が多くいらっしゃいます。いろいろなやり方が存在するように思われますが、要点は数ポイントあるのでそこが一番大事です。そこでそれらを鑑みて、骨盤的筋トレーニングに対する注意点を挙げていきます。

 

1,解剖学的な位置をキチンと把握し、イメージできないと効果的でない。

メディアを参考にし、独学で自宅で骨盤底筋トレーニングを行う方もいらっしゃるでしょうが、骨盤底筋は深部にある筋肉で意識しずらい筋肉であるので、ほとんどの場合、適切に筋肉を働かせていないようです。正しい骨盤底筋の解剖学的レクチャーを受け、その位置を把握することから筋肉の自覚を促す事が大事。漠然と行い、筋肉をキチンとイメージできていないと効果が半減します。

 

2,毎日継続して行ってもらう必要があります。

「教室スタイルの集団で運動するようなものでないと長続きできない」と訴える方がいますが、骨盤的筋の運動は毎日自宅で行っていただく必要があります。週に1~2回、皆で集まって行えば達成するというものではありません。したがって、教室スタイルでないと出来ないというのは「やらない理由」にはなりません。

 

3,個別の対面指導の方が効果的です。

骨盤底筋の運動指導は微細な筋の緊張具合を評価し、筋肉の使い方を細かく教わりながら行うべきものです。したがって集団で行う教室スタイルより、個人対面のパーソナル指導の方が適切になります。私も人から対面で直接指導を受けることで、初めてキチンと理解することができました。

 

病院などの医療機関では人手の確保の問題、フィットネスジムでのスタジオでは経営的問題などでどうしても多人数を同時に指導するスタイルが一般的になります。しかし、本来は上記の理由でパーソナルでの指導の方が最適です。

骨盤底筋のやり方を学ぶのには個別指導が良いというのは分かったが、そもそも骨盤底筋に対する運動って、尿漏れに有効なのか?という疑問を持たれた方もいるかと思います。次はその事について。

 

尿漏れに対する骨盤底筋の運動の有効性を研究した学術論文

次に、尿漏れに対する骨盤底筋の運動の有効性を研究や、その安全性を研究した学術論文のいくつかご紹介していきます。記事の検索はPubMedによります。

 

【産前・産後の女性の尿失禁の予防および治療のための骨盤底筋群のトレーニング】

 【Pelvic floor muscle training for prevention and treatment of urinary and faecal incontinence in antenatal and postnatal women.】

 

著者;Boyle R, Hay-Smith EJ, Cody JD, Mørkved S.

Cochrane Database Syst Rev. 2012 Oct 17;10:CD007471. doi: 10.1002/14651858.CD007471.pub2.

【要約】

出産女性の1/3に尿失禁があり、1/10には便失禁もある。骨盤底筋群トレーニング(PFMT)は妊娠中・産後の失禁予防・治療として推奨されているが、通常の産前・産後のケアと効果の比較を無作為比較・ランダム化試験の論文のシステマティックレビューにより検討してみた。

結果は、8485人(PFMT群4231人、コントロール群4254人)を対象とた21本の論文から言えることは、尿失禁がない妊婦にPFMTを実施すると、実施しない集団に比べ、産後6ヶ月の時点で尿失禁が30%が少なくなる。また、産後3ヶ月時点で尿失禁がある女性にPFMTを継続して実施してもらうと、実施していない集団に比べ、産後12ヶ月の時点での尿失禁の割合が40%減るという事が報告されていた。トレーニング・プログラムが集中的に行われている程、治療効果は高いように思われた。

尿失禁は産後直後からの発症だけでなく、産後数年経ってからでも発症することが報告されています。オダゴ大学(ニュージーランド)2002年の7882人の産後女性へのアンケート調査によると、産後5~7年経過時点で44.6%が尿失禁を経験しており、その内、産後6年以上経過して尿失禁が消失したのが27%いる一方、初めに尿失禁がなかったのが尿失禁を発症してしまったのが31%もいたと報告されました。つまり産後女性の全体の約14%は産後しばらく経ってから尿漏れを発症するということです。

産後、継続的な骨盤底筋の強化を行わないと、その時は大丈夫でも後から排尿コントロールの機能不全が出てくる可能性が示唆されています。産後直後に尿漏れがなくても予防的に骨盤底筋のトレーニングは行っていくほうが好いことを物語っています。

 

 

【分娩後早期における骨盤底筋群の収縮運動は、産後女性の陰部痛を引き起こすか?】

 【Does pelvic floor muscle contraction early after delivery cause perineal pain in postpartum women?

 

著者;Neels H, De Wachter S, Wyndaele JJ, Wyndaele M, Vermandel A.

Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol. 2017 Jan;208:1-5. doi: 10.1016/j.ejogrb.2016.11.009. Epub 2016 Nov 11.

【要約】

出産後に会陰部痛に見舞われる女性がいることにより、多くの女性や介護者は出産直後に骨盤底筋の訓練を開始することを恐れている。実際に、骨盤底収縮(PFMC)が出産直後に女性の会陰痛を引き起こすかどうかは不明であり、その検証を行った。

産後1~6日および9週間の期間で、PFMCの動作中、日常生活での動作中、排尿および排便時における会陰部痛を痛みスケール(VAS 0-10)で評価してもらった。計233名の女性が参加(初産148名、複数回出産85名)のもと痛みの評価は、 PFMC運動中(8%; VAS 2.2(±0.9))、日常動作時(73%; VAS 4.9(±2.3))、排尿時(47%; VAS 3.4(±1.7))および排便時(19%; VAS 3.6(±2.2))となり、PFMC運動中の会陰部痛は有意に低い事が分かった。また産後9週間で、性交中の会陰部痛が30%(VAS 4.6 +/- 2.3)、排便中の会陰部痛が18%(VAS 4.7 +/- 2.3)あることが報告されたが、PFMC中には全く認められなかった。

結論として、会陰部痛が引き起こされることを懸念して、骨盤的筋群の運動を控える必要なないといえる。

一般的なイメージとして、産後直後に骨盤底筋の運動をさせると、逆に痛めてしまうのではないかと思われ勝ちです。しかし実際に調べてみると骨盤底筋を収縮させる運動は、他の日常動作や排便・排尿による痛みよりも低いことがわかりました。

痛みスケール(VAS)は、0が全く痛くない、10が死ぬほど痛い。耐えられない。の11段階を主観的に評価してもらうスケールです。骨盤底筋運動中の痛みが平均2.2で、日常動作の痛みが平均4.9、排尿時の痛みが平均3.4、排便時が3.6と有意に低いので、運動は控えずに行ってもらうことが推奨されます。ただし、会陰切開や帝王切開時は当然、適応外です。創が癒えてから行うことが賢明です。

 

まとめ

尿漏れに対する骨盤底筋トレーニングの有効性は信頼度の高いエビデンスが示されています。トレーニング自体は薬のような副作用もないし、手術のような失敗もないし、ホームケアで行う分にはお金もかかりません。最悪の結果として「効果が無かった」という程度だと思われます。私の知る範囲では、骨盤底筋トレーニングで尿漏れが悪化したというのは聞いたことがありません(今後はわかりませんが。また、見落としもあるかも知れません)。ですので当院としては骨盤底筋トレーニングは推奨しています。

今まで面倒くさいな~と思って実施することを躊躇していた方が、この記事を読むことによってやる気になっていただけたなら幸いです。

では、今回はこの辺で。