前々回の妊婦さんの症例のご紹介を作成していて気づいた点がありましたので、補足説明として今回ご紹介させて頂きます。

当院での妊婦さんの訴えとして多くが、腰部の痛み、お尻の上の部分の痛み、股関節の後ろから横にかけての痛み、鼡径部の痛み、肩こりとなります。

肩こりは産前からあるものがそのまま引き続き存在しているという場合が多いので特に妊婦さん特有という訳ではありませんが、腰痛以外は産前になかったものが妊娠期間中に発症したものです。腰痛は妊娠由来とそうでないもの両方ありますね。

ここで注意してもらいたいことは、ごく稀なケースですが妊婦さんの股関節に痛みを出す特殊な病気があることです。

あまり遭遇することはありませんが、このような場合もあるということを知っていただき、「股関節あたりが痛いけど、どうしようかな~?」と悩まれている妊婦さんがいらしたら、もしもの場合にそなえて施術院をご利用する前に専門医で先に受診をされることを提案させて頂きたいと思います。

 

 

妊娠中の一過性大腿骨頸部骨粗鬆症と大腿骨頭壊死症

妊娠中は胎児にカルシウムを補給するため、母体のカルシウムが不足し骨密度が低下することがあります。授乳中は母乳中にカルシウムを供給するため、さらに骨密度が低下しやすく、その点が産後骨粗鬆症(そしょう症)としてクローズアップされがちです。しかし、妊娠中から一過性の骨粗鬆症になることもあります。

妊娠中および産後の骨粗鬆症で一番障害が出やすいのが、負担がかかる腰の骨の部分で、ここの圧迫骨折が引き起こされやすくなります。また、股関節も強く負荷がかかる場所であり、大腿骨も骨粗鬆症の影響を受けやすいため症状が出ることがあります。

厳密に言うと、骨壊死と骨粗鬆症は違います。壊死は主に血流障害により骨細胞が死んでしまい骨が潰れてしまう現象であり、骨粗鬆症は骨の中のカルシウムが抜け出ることで骨の中身がスカスカになり、最終的に骨折してしまいます。ここでは似たような現象として同じように紹介しています。

次に妊娠期大腿骨頭壊死の報告の紹介を掲載しておきます。

 

【妊娠に関連した大腿骨頭の骨壊死。予備的報告。】

Osteonecrosis of the femoral head associated with pregnancy. A preliminary report.

著者;Montella BJ, Nunley JA, Urbaniak JR.

出典;J Bone Joint Surg Am. 1999 Jun;81(6):790-8.

《概要》

妊娠中及び産後4週以内に痛みを訴えた13人の女性(障害股関節は計17ヶ所;4人が両側、9人が左股関節のみ)が対象となった。対象者の年齢は25〜41歳(平均31.5歳)。13人中11人が初産であり、通常、妊娠第2期または第3期の後期から痛みが出始めていた。また、13人中8人が下肢の腫脹および静脈瘤を有していた。診断は平均10.3ヶ月遅れて確定され、一過性骨粗鬆症の誤診をよくされていた。全てMRIにて大腿骨頭の骨壊死が観察された。

その内、11人の女性(股関節は15ヶ所)を血管柄付き腓骨移植術が施された。手術後9人は疼痛の顕著なまたは完全な軽減を認めた。進行性疼痛を有する患者の2つの股関節を、全人工股関節形成術で治療した。1人(両側股関節障害)が追跡調査から外れた。最低2年間フォローアップが可能であった9人(11股関節)は、Harrisヒップスコアで24ポイントの平均改善がみられた。

結論として、妊娠中に始まる股関節の痛みは大腿骨頭の骨壊死によって引き起こされる事がある。MRIはより早期の診断に有用であり、血管柄付き腓骨移植術は有用な治療の選択肢であると言える。

ここで言う妊娠2期・3期というのは、アメリカでは臨月のことを第9月とよび、妊娠9ヶ月を3分割にして表現しています。また、血管柄付き腓骨移植というのは、スネの骨の一部(腓骨)を血管を付けたまま切り出して、この場合は大腿骨頚部の心材として埋め込む手術のようです。血管がついているので骨が再生しやすいようです。

この報告のように、妊娠期の股関節の痛みは骨頭の壊死など骨自体に問題がある場合もあります。このようなことがあるので注意が必要です。

 

因みに妊娠中にMRIを受けていいかどうかという議論ですが、研究的には妊娠初期3ヶ月の報告では胎児・母体ともに問題ないというのが発表されています。

yahoo!ニュースより

 

ただし妊娠中期以降は母体や胎児にどんな影響があるはまだよく分かっていないようです。ですので個人的な意見ですが、大腿骨頭壊死に関しては命にかかわる病気ではないので、MRIも無理に妊娠期に撮る必要は無く産後からで十分だと思います。

 

妊娠中の反射性交感神経性ジストロフィーによる股関節痛

反射性交感神経性ジストロフィーは、通常、骨折や打撲、捻挫などの外傷に続いて引き起こされる神経障害ですが、特に神経に損傷が認められなくても発症します。発症原因が不明のことも多く、発症メカニズムもよく分かっていません。体のどこでも起こる可能性はありますが、手足の広範囲に症状が出ることが一般的です。

症状は、焼け付くような痛みと、その領域に腫れ、発熱、発汗異常などの自律神経障害が現れ、進行すると皮膚・筋・骨の萎縮が見られ、関節が動かなくなってきます。

反射性交感神経性ジストロフィーは妊娠期に起こることが報告されていて、それは股関節に限局的に症状を出すことがあるということです。そのことについての報告を次にご紹介します。

 

【妊娠中の反射性交感神経性ジストロフィー:9つの症例と文献のレビュー。】

Reflex sympathetic dystrophy in pregnancy: nine cases and a review of the literature.

著者;Poncelet C, Perdu M, Levy-Weil F, Philippe HJ, Nisand I.

出典;Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol. 1999 Sep;86(1):55-63.

《概要》

9つの症例の後ろ向き追跡と、文献のレビューを用いて疾患の分析を行った(反射性交感神経性ジストロフィーに関する57人の患者と159のサイト)。この障害は、骨盤痛や下肢痛で考慮する必要があり、症例の88%は股関節痛と関連があった。症状は妊娠第3期の26週~34週の間に発生する。MRIでの診断が迅速、正確、特異的となる。骨折は患者の19%で起こる。病因および病態生理は依然として不明であるが、妊娠自体はこの疾患において重要な役割を果たすようである。また高トリグリセリド血症は危険因子のようである。この障害は独立して発症するが、治癒のためには妊娠期を終える必要がある。反射性交感神経性ジストロフィーは、妊娠の経過に影響を与えない。腹式分娩の兆候は産科学上のものと同じであるが、骨折が生じている場合は討議すべきであろう。穏やかな理学療法を使用した簡単な治療管理は、2~3ヶ月で迅速かつ完全な回復をもたらす。

 

これらの病気は至って稀なので、あまり周りで起こったということは聞いたことはありません。また、これらの調査は外国での話しなので、日本での発症率がいかほどなのかは分かりません。しかし、可能性としてこのような病気もあるということも考慮しておく必要があります。

幸い、この報告では出産自体に反射性交感神経性ジストロフィーは影響を与えない(股関節の骨折がなければ)ということですし、妊娠が終了すれば回復は2~3ヶ月で完全に行われるということなので心配は少ないようです。

 

まとめ

妊娠期の股関節周辺の痛みはよく訴えられる障害ですし、大抵の場合は関節的な痛みより筋肉の問題から引き起こされる場合が多いです。

ごく稀にですが、今回ご紹介したような病気が混ざっているかも知れません。痛みが起こった場合は、念のためまずは専門医の受診をお勧めします。この情報が妊婦の方の何かの役にてば幸いです。

では、今回はこの辺で。

 

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